健大高崎vs神村学園
健大高崎の勢いと脆さ
3月28日の第1試合は、健大高崎の勢いと脆さが出た試合だった。勢いのよさは1回表に先取点を挙げる場面によく見えた。1番竹内司(中堅手・右投左打・178/70)が四球で歩くと、神村学園ベンチは当然、バントを予想したはずだ。1回戦の天理戦は、やはり1回表に先頭の竹内が左前打で出塁したあと、2番中山奎太(二塁手・右投右打・170/66)がスリーバントを敢行しているのだ(バント失敗)。
しかしこの場面で健大高崎ベンチは強行策を採用、中山はそれに応えて中前打を放ち、無死一、三塁とする。これこそ、健大高崎の勢いを象徴する場面である。次に打席に立った3番長坂拳弥(捕手・右投右打・175/72)が左前にタイムリーを放ち先制点を奪い、後続のバント、投手ゴロでさらに1点を加点した。
5回は得点にこそならなかったが、こんなシーンがあった。先頭の竹内が四球で出塁したあと二盗に失敗して走者なし→次の打席に立った中山はやはり四球で出塁すると、すぐに二盗して1死二塁→さらに相手投手の暴投で1死三塁→3番長坂が暴投振り逃げで一塁へ走ると→捕手の一塁送球の間に三塁走者の中山も猛然と本塁へ突っ込むも憤死する。
これは普通に考えれば無謀な走塁だが、私は健大高崎の勢いが成せる業だと思った。
逆に、健大高崎の脆さは中押し点を奪えない決め手のなさにある。3、4、5回は得点圏に走者を進めるが、後が続かない。神村学園はどうかと言うと、1~4回まで散発的に走者を出しても二盗を失敗したりして、二塁すら踏めないイニングが続いた。
中盤に1点でも挙げることができれば守勢一方の神村学園はへとへとになっていただろう。しかし、いくら走者を出しても得点できない健大を見て、神村ベンチはまだいけると思ったのではないか。5回裏、死球をきっかけに2死三塁の局面を作ると、9番二河拓馬(遊撃手・右投右打・174/70)の左前タイムリーで待望の得点を挙げた。
6、7回は両チームとも三者凡退に終わり、迎えた8回裏、神村学園に絶好の同点機が訪れる。先頭の二河が左前打で出塁したのだ。健大の6回以降の淡泊な攻撃を見れば、ここで同点に追い付けば神村学園は裏の攻撃だし、サヨナラ勝ちが十分見込める。
しかし、次の瞬間、神村ベンチは凍りついた。二河が健大高崎の捕手、長坂のけん制球にあい憤死するのだ。神村学園ベンチは明らかに落胆した。続く新納真哉が三振、田中貢大がセンターフライに倒れ、私はここで試合が終わったと思った。
このピンチを防いだ健大高崎は9回表、神村学園の三塁手エラー、野選、死球で無死満塁のチャンスを迎え、2死後、今日のラッキーボーイ、2番中山の死球で待望の追加点を奪い、勝利をほぼ不動のものにした。
敗れた神村学園は九州大会優勝校の看板を背負ってここまで戦ってきた。昨年まで九州代表校は4年連続でセンバツ大会決勝戦に進出している。しかし、今大会は宮崎西、別府青山、九州学院が敗れ、神村学園は九州勢最後の砦だった。まして、自分たちは昨年秋の九州大会優勝校である。簡単に引き下がるわけにはいかない。
そういう意地が最も強く感じられたのは5回途中からリリーフ登板した柿澤貴裕(右投左打・177/77)のピッチングである。この日の最速は148キロ。このストレートを前面に押し出して、健大高崎の勢いを完全に封じ込めにかかった。先発した技巧派の平藪 樹一郎との緩急効果は絶大で、健大高崎打線は完全に力負けしていた。
4回3分の1を投げて被安打1、奪三振1、失点は味方エラーによるものなので自責点はゼロ。この柿澤が死球1つで敗戦の責任を一身に背負うことになるのだ。野球は過酷なスポーツだと思った。
(文=小関順二)