試合レポート

三重vs鳥取城北

2012.03.22

試合巧者・三重 普段着の野球で初戦突破

 見事な決断だった。

三重が1点をリードして迎えた3回表のことである。

鳥取城北は1死から1番・佐藤が死球で出塁、2番・駒居の犠打が内野安打となって1、2塁とすると、3番・木村が右翼線に適時二塁打を放って、同点とした。

なおも、1死・2、3塁。

チャンスは続いていた。

ところが、一打逆転ともなるこの場面で、三重の内野手は前進守備を敷かなかったのである。試合が序盤であることを考えれば当然の策ともいえるが、意外と思いきったことができなくなるのが甲子園なのである。1点を捨てて、一つのアウトを取りに行ったのだ。「数年前に、中京大中京が早実とやったときに、ピンチのたびに前進守備にして、大量失点をしていた」と沖田監督は回想する。そして、鳥取城北の 4番・川野はサードゴロ。1点が入った者に、攻撃はそこで止まった。
してやったりだと思ったのは、三重の捕手・小林である。
「チームの方針で、あの場面ではセカンド・ショートは後ろで、ファーストとサードはバックフォームをとることになっていました。あの時は、サードゴロでしたけど、ボテボテだったので、1点は構わないと思っていました。鳥取城北は、勢いに乗ってくると止められなくなるので、あそこで無理な守備陣形を引くのではなく、攻撃を止められたことは良かったと思う」。

三重が前進守備をして、さらなる得点を許していたかどうかは分からないが、死球やバント処理のもたつきからのピンチで傷口を最小限に抑えたことは、この試合にとって非常に大きい場面だった。その裏、三重がすぐに同点に落ち着いているのも、このときの守備がつながっているといえるだろう。


鳥取城北と三重の戦い方はまさに真逆だった。

堅実な攻めの三重に対し、鳥取城北は常に積極的だった。
犠打を使うが、走者が出れば当然のように、犠打を選択するのではなく、打順によっては積極的に打ってきていた。先述した3回表の攻撃も、1死・1、2塁から3番の木村には犠打をさせずに、攻めてきていた結果の同点、あるいは逆転の好機だった。

しかし、5回表、その積極性が裏目に出る。
1死、1塁から2番・駒居に強攻策。駒居は左翼線に痛烈な打球を放ったが、三重の左翼手・前川仁が絶妙なポジショニングで好捕。すると、一塁走者の佐藤をも封殺したのだ。
そして、その裏、三重の先頭・北出が左翼線を破る二塁打で出塁、犠打で三進のあと、3番・岡本の適時二塁打で生還。試合を逆転した。北出は言う。
「守備でいいプレーができて終わっていたので、流れが傾きかけていた。勢いをつけようと思った」。

三重は8回裏に3点を追加し、試合の大勢を決めた。9回表に、2点本塁打を浴びたものの、鳥取城北の勢いは最後まで続くことはなかった。
鳥取城北は昨秋、中国大会を初めて制覇。神宮大会では、敦賀気比をタイブレークの末に制し、智辧学園を逆転の末に破ってベスト4入りを果たしている。いわば、小林の言うよう、「勢いに乗ったら止められなくなる」チームだった。

3回表の守備の決断といい、5回裏の、流れを呼んでの、北出の出塁といい、三重の試合巧者ぶりが目立った試合だった。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.28

【広島】広陵、崇徳、尾道、山陽などが8強入りし夏のシード獲得、広島商は夏ノーシード<春季県大会>

2024.04.28

【岡山】関西が創志学園に0封勝ちして4強入り<春季県大会>

2024.04.28

【富山】富山商、氷見、未来富山などがベスト16入り<春季県大会>

2024.04.28

【鳥取】鳥取城北が大差でリベンジして春3連覇<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!