大阪桐蔭vs花巻東
負けはしたが、存在感は抜群だった大谷翔平
後半の大逆転劇で決着がついた第3試合、大阪桐蔭対花巻東戦はファンが待望した、息詰まるような投手戦にならなかった。その責任の大半は花巻東の右腕、大谷翔平(右投左打・193/85)にあると言っていい。4死球、7四球で自滅した大谷は、試合前のブルペン投球から万全ではなかった。ストレートが右打者の内角方向、あるいは高めへと抜けていたのだ。
腕を振り抜いて初めてストレートは唸りを挙げて低めに伸びていくのだが、今日の大谷は試合前から腕を振ると言うより、押し出すようなリリースでボールを投げていた。「今日の」と限定して書いたが、上体にねじれが生じるフォームは慢性的にボールが抜ける要因になり得るので、夏までには直したほうがいいかもしれない。
ストレートが悪いなりに5回まで2安打、無得点に抑えたのは、抜群のキレを見せたスライダーと、四隅を突くコントロールが安定していたからだ。スライダーと簡単に書いたが、130キロ台中盤の速さから、あるときはベース付近から鋭く横にスライドし、あるときは小さく落ちるという球種。11奪三振のうち7個はスライダーによるもので、そのうち6個は空振り。それだけで威力のほどが知れようというもの。
ただ、「超高校級右腕」「みちのくのダルビッシュ」と形容されているのは、MAX151キロのストレートがあるから。この日の最速は148キロと自己最速に3キロ及ばす、6回以降のコントロールもよくなかった。正直、がっかりしたファンは多かっただろう。
私もピッチングには正直、心を動かされなかった。しかし「打者でもドラフト1位」とスカウトから評価されているバッティングは掛け値なしに素晴らしかった。打席に立っただけでオーラが匂い立つ高校生はそう多くない。先頭打者として打席に立った2回裏、藤浪晋太郎(右投右打・197/88)が投じた116キロのスライダーを捕手寄りで押し込むように放った打球は高い放物線を描いてライトスタンドに吸い込まれた。この一発を見られただけでも甲子園にきてよかったと思った。
野手的才能を感じるのはバッティングだけではない。バント処理の素早さにもその才能を強く感じる。3回は無死一、二塁で大西友也(二塁手・右投右打・174/71) のバントを処理して三塁で封殺、8回にも1死一塁で藤浪のバントを処理して二塁で封殺と、野生獣のようなフィールディングでピンチを無得点で切り抜けているのだ。普通、投手のコンバート先は外野が相場だが、大型三塁手として育成したらどれだけの選手になるだろうかと、しばし夢想した。
大阪桐蔭に目を転じれば、3対2と逆転して迎えた7回表に放った田端良基(一塁手・右投右打・175/85)の2ランホームランがあまりにも大きかった。打球がポールを巻いてレフトスタンドに放り込まれた瞬間、マウンドの大谷からガクッと力が抜ける音が聞こえるようだった。
打った球は内角寄りの高めスライダー。これを十分すぎるくらい捕手寄りで捉えて、押し込んだ。それまでの打席は死球、三振、遊安打と満足のいくものではなかった。田端がひたすら待っていたのはストレート。しかし、大谷はストレート勝負をしてこない。そういうもどかしさが田端の全身から陽炎のように立ち昇っていた。
第2打席は134キロのスライダーを見逃し三振。第3打席は初球のスライダーを空振りしたあと、2球目のスライダーをレフト前に落としてポテンヒット。そっちがその気なら、こっちもスライダーを待ってやると思ったか思わなかったかわからないが、私にはそう見えた第4打席、田端は内角高めへの抜け気味のスライダーを狙い打ってレフトスタンドにぶち込んだのである。
全国区ではないが、関西では“おかわりくん2世”の異名を取るスラッガーで、強く柔らかいリストや、グリップを低く構える打席の構えなど、同校OB中村剛也(西武)を彷彿とさせる。この田端をはじめ、1番の2年生、森友哉(捕手・右投左打・169/80)やエース藤浪など、2回戦以降の活躍が望める大器が大阪桐蔭には数多くいる。
(文=小関順二)