試合レポート

智辯学園vs天理

2011.11.07

智辯学園vs天理 | 高校野球ドットコム

優勝旗授与 智辯学園・中道勝士主将

智弁学園が秋季大会初制覇!彼らが得たものは

 大きな波に乗ると、こうも新しい流れはできるのか。
智弁学園が初めて秋季近畿大会の頂点に立った。数々の歴史を持ちながら、初制覇だったことには少々驚いたが、長い歴史を振り返っても、彼らが一つのヤマを越えたことは間違いない。

そもそも、智弁学園の快進撃は、この夏から始まっていた。年ぶりにベスト8に進出した智弁学園は、この夏の大会で奈良県勢の不名誉な記録を打ち破っている。“奈良県勢は春夏の甲子園で神奈川県勢に勝ったことがない”という壁を乗り越えたのだ。
その後の大会で、県予選こそ準優勝に終わったが、近畿大会を初制覇した。それも、史上初となる奈良県勢同士の決勝を制したのだから、時代の流れは智弁学園に向いているのかもしれない。

「選手が落ち着いてきましたね。今日の試合もバタバタするかなって思ったけど、(初先発の)木村(祐也)もゲームを作ってくれたし、怪我で青山が出られんくても、落ちついて戦っていた」と監督代行時代から数えて就任7年目になる小坂将商監督も手ごたえを感じている。

今大会で何より大きかったのは、準決勝・決勝の2試合で、チームの大黒柱・青山大紀を、ほぼ出場させずに戦いぬけたことだ。
青山が入学してから今大会までの間、戦力は充実してきていたとはいえ、青山の存在感に依存してきたことは否めない。青山が活躍すれば勝ち、逆に、青山がマークされると負けてしまう。これまで、そうした戦いを繰り返してきていた。選手の声を代弁すべく、青山とエース・主軸を争う小野耀平はいう。
「夏にしても、ベスト8に進出して、嬉しいんですけど、先輩らと青山がやっただけで、僕個人は何をしたってわけでもない。むしろ、僕は作新学院戦で先発させてもらったのに、足を引っ張ってしまってますから」
いわば、今の智弁学園にとって、いかに青山に頼らずに、戦えるかがテーマなのである。


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智辯学園 木村祐也投手

とはいえ、一言に、「脱青山」と言っても、チームに彼がいる限り、それを果たすのは難しい。練習試合で彼を温存させたとしても、公式戦は別問題だ。県大会がそうだったように、青山以外が先発しても、接戦になると、結局、青山が登板するのだ。県大会3回戦の畝傍戦では同点の9回から青山は登板したし、県大会準々決勝の高田商戦や準決勝の天理戦、近畿大会の準々決勝まで大事なポイントでは必ず、青山が活躍してきたのだ。

それが、不幸中の幸いともいうのか、準々決勝の鳥羽戦で、青山が軽症ながらも身体に異常を感じ、準決勝以降のフル出場が不可能になったのだ。エースの座を狙う小野や「青山頼み」と揶揄されることに奮い立つナインたちにとっては絶好の機会だったのだ。

準決勝では小野が先発し、見事に完投勝利。決勝戦では、青山と小野の陰に隠れていた木村が先発し、7回までを2安打無失点に抑える好投。8回に天理の主砲・吉村昂祐に2点本塁打を浴びて、9回からはマウンドを小野に譲ったが、青山の代役を見事に果たす活躍だった。

打線の方も、1回表、1番・中道勝士が口火を切る三塁打で出塁して、相手のミスで先制ホームを踏むと、1死・二塁から4番の小野が豪快な2点本塁打を左翼スタンドに叩きこんだ。守っても、二遊間の竹田壱哉山口悠希、外野は中堅手の浦野純也を中心に、ミスだけでなく、カバーリングをさぼることがほとんどなかった。
優勝を決めるシーンは、まさに、脱・青山を象徴したシーンだった。


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最後は空振り三振に取り、小野は渾身のガッツポーズ

9回裏、智弁学園の1点リードでマウンドには小野が上がっていた。通常なら、青山が果たす窮地の場面に小野が上がったのだ。そして、小野は先頭打者に左翼前安打を打たれたものの、犠打で二進された後、後続を連続三振に斬ったのである。マウンド上で激しくガッツポーズを作る小野の姿は、現チームが青山だけではないことをアピールしているかのようだった。小坂監督は言う。

「(小野は)先頭打者を出すやろなとは思っていましたけど、いつもの小野だったら、あの場面で犠打の処理をミスするか、死球出して、ランナーためて、弱気になってガツンと行かれる。そうならんかったんは、アイツが成長したということやと思う」

そして、当の本人はいう。
「この二日間は本当に気合が入りました。近畿大会という県大会とは違う舞台で活躍できたのは大きい。僕は、この夏、甲子園という舞台でやらかしているんで、大舞台で活躍する選手になるのが目標だった。まだ、完璧ではないけど、チームの勝利に貢献できたのは良かったです」。

青山とともに1年時から試合に出場している主将の中道は、青山抜きの2試合をこう振り返る。
「実際、準決勝の履正社戦の前は不安がありました。僕自身は引っ張らないといけないし、青山がいない分をみんなでいかにカバーできるか、不安がありました。ただ、今まで試合に出ていなかった選手が、今まで練習でやってきた成果を出してくれたと思います。全員で勝てるチームになったかなと思います。青山に頼っているって周りに言われていたのは知っていたんで、これで、少しはそういう声は減るかなという気はしています。」


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9回表智辯学園 代打の一打席でしっかりヒットを放った青山

といっても、青山の存在感は絶大だ。決勝戦では志願して、代打で出場。きっちりセンター前安打を放っている。
「やっぱり、青山は凄い選手ですよ。代打を志願してきたから出したら、結果を出して帰ってきましたからね」と小坂監督はいう。

ただ、大きく違うのは、青山も、それ以外の選手もこれまで体験したことのない中での試合を積んだことである。「青山自身、カドのあるところがあった。それが、怪我で休んだことを機会に、チームともコミュニケーションをとっているし、いい雰囲気になってきたかなとは思う」と指揮官が言うよう、存在感があり過ぎた分の、チームとの距離感が合ったのも事実で、それを埋めるきっかけにはなっただろう。

「ベンチから試合を見て、自分にできることは声を出すしかなかった。試合に出ている時に、ベンチからの声に励まされたりするんですけど、みんなこれだけ出してくれているんやって、この2試合で感じました」と青山は話してている。

「青山が帰ってきても、全員で戦えるチームにはなってきていると思います」と中道はいう。怪我の功名から「青山依存」を測り、秋季近畿大会を初制覇した智弁学園が得たものは、実に大きい。
「“奈良”の智弁学園はまだ全国で優勝したことがないんで頂点を目指したい」
流れは感じている。
指揮官の言葉は、そう遠くない未来へ向けた力強い宣言だった。

(文=氏原英明
(撮影=松倉雄太)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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