試合レポート

高知vs明徳義塾

2011.11.05

高知vs明徳義塾 | 高校野球ドットコム

7回裏明徳義塾4番西岡貴成(1年)の2点適時打で同点に追い付き、伊與田一起(2年)が歓喜のジャンプ

高知、涙の明徳義塾越え。「名勝負数え歌」は徳島の地でも健在!

「黒潮薫る 自由の土佐に 萌えたつ緑の 鷲尾嶺越えて」

徳島県鳴門市・オロナミンC球場で勝利の校歌を歌う高知の声は全て涙にむせんでいた。中村敏彦部長も、島田達二監督も、もちろん選手たちも。しかしそれは7月27日に春野の地で流した悔し涙ではない。秋季高知県大会準決勝でも再び苦杯を舐め、超えられない壁になりつつあった明徳義塾の壁を越えた心からの嬉し涙であった。

試合は序盤から高知優勢で進んでいった。初回、県大会準決勝では完投勝利を許した相手左腕・小方聖稀(1年)に対し、先頭で安打を放った堀尾茅(3年)を4番の法兼駿(2年)がライト前への安打で迎え入れる理想的な形で先制すると、2回表にも「真っ直ぐ1本で待っていた」9番・小松朋裕(2年)の左翼線二塁打で追加点をあげる。

「小方はもうちょっと持ってくれると思ったが・・・かわいそうなことをした」と明徳義塾・馬淵史郎監督が後悔する間に2点をリードした高知。さらに彼らは2回裏に7番・宋皞均(ソン・ホキュン・1年)の適時打、3回裏にも2番・合田悟(2年)の左翼線二塁打で追撃体制を整えた明徳義塾の圧力にも全く屈することはなかった。

3回・5回にはこれまでの2試合では9打数1安打と不振を囲ってきた5番・和田恋(1年)が、3回途中からマウンドに上がったエース・福丈幸(2年)の甘いスライダーを逃さず2打席連続のタイムリー二塁打。1ヶ月前からそのまま頭を下げていたはずだった状況での見事な一打は正に、「明徳義塾との精神的な差を感じたので、秋季県大会後の1週間はあえて冬練習と同じメニューをやってきた」(島田監督)高知の真骨頂を示すものであった。

こうして想定外のスコアで前半戦を終えた明徳義塾。しかし経験豊富な彼らの修正能力もさすがであった。まず馬淵監督はグラウンド整備時に「腕の伸びるところに投げたらいかん」と度重なるリードミスを指摘。1年夏からホームを守る杉原賢吾(2年)をチームの面前で叱ることでチームを引き締めると、6回裏からは4回から先発・市川豪(1年)のあとを継ぎ快調なピッチングを演じていた坂本優太(1年)に対し、お得意の持久戦を敢行。こうして6回に24球、7回には実に29球を投げさせる粘りは、2死満塁から4番・西岡貴成(1年)の三遊間を詰まりながら抜く同点2点タイムリーとなって成就したのである。


高知vs明徳義塾 | 高校野球ドットコム

決勝3ランを放ちハイタッチを交わす4番・法兼駿(高知)

これまでであればそのまま明徳義塾が押し切る展開。ところが、この日の高知の気持ちの強さは一度の同点で衰えるようなヤワなものではなかった。8回裏2死2塁のピンチを切り抜け迎えた9回表。1死1・3塁のチャンスをつかんだ高知。ここで打席に立ったのは「『県大会から3週間の間に明徳義塾との差をなんとかしよう』と選手間でのミーティングでも話をした」主将・4番の法兼駿(2年)であった。

「アイツがチームをよくまとめてやっていた。最高のキャプテン」と指揮官の信頼も厚い法兼。ベンチの声援を背に受けながらも冷静に1ボールの後「ストライクを取りに来る」と判断を下し、インコース高めのストレートを捉えた彼の打球は、鋭いライナーでライトポールの方向へ・・・。

次の瞬間、金属音と共にポールを叩いたボールは、彼にとって高校通算25号、そして何よりも高知の2年ぶり9度目の秋季四国大会決勝進出、そして2年ぶり16回目のセンバツ出場を決定付ける3ランとなった。

一方、この敗戦により4季連続の甲子園出場から大きく後退することになった明徳義塾。馬淵監督とは角度を変えた立場からチームを支える飯野勝部長は、その敗因をあえて杉原に負わせた。

「投手の調子が悪くても試合を通じて育てていくのが、捕手の経験というもの。これまで尾松義生(3年)をはじめ先輩投手に助けてもらったのに、恩返しをなぜしないのか・・・」。

ここで筆者から1つ言えるのは、高校野球の戦いはこれで終わりではないということ。飯野部長の真意を試合終了後、涙に暮れた杉原がいかに理解できるか。悔し涙を嬉し涙に変えた高知の選手たちのように、明徳義塾が再び前を向いて進むことができれば、『試合内容に外れなし』を徳島県の観客にも披露した「高知県名勝負数え歌」は、さらに全国トップレベルの名勝負へと昇華できるはず。その先には「甲子園で勝てるチーム」の熟成があることは言うまでもない。

(文=寺下友徳)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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