天理vs大阪桐蔭
リリーフ登板した山本(天理)
橋本采配の妙
鳥肌が立った。
天理・橋本武徳監督の采配が見事にはまったからである。
もっとも驚いたのは、1回戦の立命館戦で18奪三振のエース中谷を5回3失点で降板させたことだ。
「中谷は4日前から背中が痛いと言いだして、この二日間は、投球練習をしていなかった。ぶっつけでも投げられる選手だから先発させましたけど、内容が良くなかったし、流れを変えたいというのもあったので、すぱっと代えました」。
理由を聞けば、確かに納得はいく。
とはいえ、代わりに登板したのが背番号「11」の山本だったのだから、実に思い切ったように思えたのだ。山本は、県大会の準決勝で途中登板し、散々な内容だった。制球が定まらず、ストライクを取りに行った球を痛打される。
4人の打者に3安打1本塁打を浴び2失点。キレのあるストレートを持っているとはいえ、大阪桐蔭を相手に、1点ビハインドから登板させるとは橋本監督の決断には恐れいった。
その山本は6回表の大阪桐蔭の攻撃を無失点で切り抜け、流れを変えた。その裏にチームは逆転。7回表に一時は同点とされるも、7回裏に関屋の2点本塁打などで4点を奪って勝ち越し。山本は残り2イニングをぴしゃりと抑えた。まさに、試合の流れを大きく変える快投だった。
通常、エースが確立しているチームは、「エース依存」からなかなか抜けられない。高校野球の大会が、トーナメント方式で行われていることも影響しているだろうか。「エースで負けても仕方がない」という発想で、怪我であっても続投させるケースが高校野球では多いのだ。
関屋が2点本塁打(天理)
大阪桐蔭にしても、試合途中に指から出血があったエース藤浪を早々に降板させることはなかった。中盤の藤浪のピッチングは確かに見事だったが、7回からはいつものキレがなかった。西谷監督が藤浪を信頼しているからだが、点差を広げられるまで判断が遅れたことは、天理に先手を取られる結果を招いたと言える。
天理はエース中谷が怪我を抱えていたという見方もあるが、橋本監督は怪我だけで代えたのではないと証言している。なぜなら、中谷は降板を志願したわけではないのだ。試合展開をよみながら「このまま、中谷投げていても状況は変わらない」と判断したのである。
絶大なる存在感のエースを下げ、経験・実績不足の投手を投入して流れを変える。橋本監督の決断を、ただただ賞賛するしかない。
橋本監督は力説する。
「山本を起用する怖さはなかったですね。智弁戦が悪かったから使わないとか、そういう選択をしていたら、いつまでたっても選手は成長しないでしょう。
山本はこの夏から一番成長してきた選手だったし、思い切って任せてみようと思った。逆に、今日のピッチングで、彼を使っていくめどは立ったんじゃないですかね」。
一方、攻撃面でも、橋本監督の采配はさえていた。
1回裏、無死・1、2塁の好機でバントを失敗すると、それ以後、バントを使わなかった。走者が出ると、常に強攻策。得点シーンこそ、二死からだったから強攻策の結果とはいえないものの、積極的な姿勢が天理打線に振っていく気持ちを高めさせたのは間違いない。「監督さんは僕たちのことを良く理解してくださっていると思います。自分たちはバントするよりも、どんどん打って行きたい。そういうところを見てくれている」と主将の船曳である。
6回裏は2死から3連打で2点。7回裏も、2死から四球の走者を生かしての3連打で4点を奪った。奈良3位校から、優勝候補・大阪桐蔭を逆転しての快心の勝利だった。
橋本監督は、過去に2度の全国制覇の実績がある。1度目は就任して5年目だったが、2度目は不祥事からたった3カ月での偉業だった。
なぜ、彼がそのような実績を誇っているか。
この日の采配で、その一端が見えた。