近江vs育英
近江 藤原隆蒔(4番サード)
理解できていた攻撃の意図
9回に2点差まで追い上げられ、苦しんだ末の勝利。スタンドへの挨拶を追えると、近江・福井真吾主将(2年)は涙を抑えきれなくなっていた。2時間35分の長いゲームが近畿大会1勝の難しさを表しているようでもあった。
とにかく自分達の流れに持ってくるまでに、時間がかかったこの日の近江。先発したエースナンバーの村田帝士(2年)は、育英打線に捕まり、毎回のようにピンチを背負った。
それでも、3回に失った1点で耐えていたことが、『どこかでチャンスがあれば』という状況を作っていた。
そしてクリーンアップから始まる4回の攻撃にその場面が訪れる。まず3番の山口健太(2年)がセンター前ヒットで出塁。打席は4番の藤原隆蒔(2年)。4番打者ではあるが、1点差。育英サイドは当然、バントを頭にいれつつシフトを取った。
だが、藤原は1ボールからの2球目を思い切り振り抜く。打球はレフトの頭上を越えた。走者のスタートが若干遅れたため、シングルヒット止まりに終わったが、相手に対して強烈なインパクトを残す一打になった。
4回裏5番橋本のこのスイングが逆転3ランとなる
無死1、3塁と場面が進んで5番の橋本大樹(2年)が打席に立つ。2ボール1ストライクからの4球目。育英先発・山下啓太(2年)の直球が少し高くなった。これを逃さなかった橋本の打球は、ライナーとなってライトスタンドに突き刺さった。
流れを完全に呼び寄せる3ランで逆転した近江。セオリー通りのバントではなく、強気にいって最高の攻撃となった。
打った橋本は、「藤原は調子が良かった。(多賀章仁監督の策が)バントじゃないのを見て、この回で一気に畳みかけたいというのを感じた」とネクストで作戦をしっかりと理解していたことを話してくれた。
その多賀監督は、「送った後に一本が出ないというのが嫌だった」と強攻策の理由を説明。さらに藤原のバットが振れていたことで、橋本と打順を入れ替えたことも当たった。
これでゲームの完全に流れを掴んだ近江。
山田から、広瀬亮太、山田將太(2年)と継投し、点差も徐々に広げていく。後半の攻撃では、バントや盗塁など多彩な攻めで相手を揺さぶった。
しかし、8回裏。無死1、2塁から3番山口のバントが小フライになり併殺。この失敗が、9回に4点返され、ヒヤヒヤの勝利となる引き金になった。
「今日は選手が色気を出さなければ勝てると思っていた」という多賀監督。コールドの点差が見えてきた8回の攻撃には、少し色気が見えてしまい、今後の課題となるだろう。
だが、苦しんだ末につかんだ5年ぶりの近畿大会1勝。「いろんな思いがあった」と話した多賀監督は選手を頼もしそうに見つめながら、安堵の表情を浮かべていた。