育英vs社
8回裏が始まる前に雨脚が強くなり中断
公式戦=勝負の厳しさ
思ってもみなかったであろう、逆転負け。社エースの谷口大空(2年)の目は涙が溢れていた。
8回裏が始まる直前に豪雨と変わった空模様。
〝中断1時間25分〝
この間に、それまでの試合の流れは完全に途絶えていた。
社先発の近本光司(2年)と、育英のエース山下啓太(2年)のよる投手戦で立ち上がった試合。
動いたのは4回。育英は4番上原優弥(2年)のタイムリーで先制すると、このイニングにもう1点を挙げた。ただ社打線は2回以降、山下から毎回のように走者を出す。4番藤井秀斗(2年)が2回の第1打席で放った強烈なピッチャー返しを気にしたのか、山下はその後、藤井を2打席連続で歩かせてしまう。
6回に山下の押し出し四球で1点を返した社。7回、1死から主将の川居直人(2年)がバントヒットで出塁。続く3番近本が二塁打で2,3塁とチャンスを広げた。
打席は4番の藤井。敬遠ではなく勝負を選択した育英陣営だが、藤井の迷いなく振り切った打球はセンターの頭を超え、逆転のタイムリー三塁打。
コツコツと山下を崩してきた策が当たり、流れは完全に社に傾いていた。
8回表。この回からマウンドに上がった育英の左腕・高原一城(2年)が3人で切り抜けると、それまで降ったり止んだりを繰り返してきた雨が急に強くなった。
冒頭に記した中断。
大会本部は、何としても最後まで試合を続けさせたいと、天候の回復とグランド整備に心血を注いだ。本部からその目安の時間と、精いっぱいの準備するように伝えられた選手は室内練習場で体を冷やさないように務めた。
谷口大空投手(社)
再開後、最初の守りについた社。三番手でマウンドに上がっていた谷口は状況をしっかりと理解していたはずだ。しかし、第1球がボール。そして2球、3球と続けてもストライクが入らない。結局ストレートの四球。これが途絶えていた流れが、攻め手の育英に傾いた瞬間だった。
決してコントロールが悪いタイプではない谷口。思うようにコントロールできず、しかし理解できていた頭の中がパニック状態になったのかもしれない。
奇しくも、またも強くなる雨もエースに試練を与えた。
気がつけば8回裏には〝4〝という数字が灯っていた。
そこまで、内野陣が一人も間を取っていなかった社陣営。打たれて、ようやくタイムを取った。
エースを励ます内野陣。でも捕手の恩庄遼斗(2年)がストライク欲しさのあまり、ボール球にも関わらずミットを動かして球審に注意されるなど、残り1イニングしか攻撃がない焦りも滲み出ていた。
せめて、もっと早く孤独なエースに間を取って声をかける選手がいたならば・・・
9回表、三人で攻撃を終えてしまった社。
涙を流す選手をあえてベンチに座らせ、ミーティングをした橋本智稔監督。「決して弱くはない」と言い切った。
でもほんのわずかなことで、勝負には敗れた。公式戦という舞台での勝負の厳しさ、野球の怖さを味わった選手たち。
この貴重な経験をどう来夏に繋げていけるか。
(文=松倉雄太)