日大三vs開星
超強力・日大三打線を抑えるカギは?
凄まじい打激戦だった。
共に、攻撃力のある日大三VS開星の対決は、予想どうりの、いや、ある意味では予想以上の打撃戦になった。
開星の149㌔右腕、白根があれほど粉砕されるとも思っていなかったし、0―5という絶望的なビハインドから開星が一時は試合をひっくり返すとも思ってなかった。
想像を超えた打撃戦―――。
それがこの試合の印象である。
試合は、先述どおり、いきなり日大三打線が猛攻を掛ける。
1回裏、先頭の1番・清水が快音を響かせる中前安打で攻撃の狼煙を上げると、二死1、2塁から、5番・高山、6番・菅沼が連続適時打を放ち2点を先制。さらに、連続四球で1点を加えた。3回には先頭の5番・高山が中越え三塁打で出塁すると、6番・菅沼が左中間を破る適時二塁打。8番・吉永も右翼前へ適時打を放ち、この回2点。
序盤だけで5点のリードを奪ったのだ。
開星は頼みのエース白根が打ちこまれ、さらには制球を乱して2回途中で降板。2番手の森がマウンドにあがり、反撃の機会をうかがうしかなかった。
その反撃の機会は5回表に訪れる
1死から9番・黒崎が内野安打で出塁すると、1番・大崎が左翼前安打で続く。犠打で送って、2死2、3塁の好機を作ると、3番・白根が中前へ2点適時打を放つ。さらに4番・森がバックスクリーンへ特大の本塁打。一気に4得点。その差を1点にしたのだ。
6回表には、先頭の金山が四球、続く7番・安原の送りバントが内野安打となり、無死・1、2塁とすると、8番・安田はバスター。これが左中間を破る適時二塁打となり、2者が生還。逆転に成功したのである。
5点ビハインドからの2イニングでの逆転。日大三の序盤の攻撃を見れば、意気消沈してもおかしくないが、「5点差は序盤だったし、後半に返せばいいと思っていた」主将の安田の言葉のように、彼らの意欲は朽ちていなかったのだ。
ところが、日大三も黙ってはいない。
直後の6回裏、猛反撃に出る。
先頭の1番・清水が右翼前安打で出塁すると、犠打エラーと四球で無死満塁の好機。ここで4番・横尾が執念で二遊間を破ると、2者が生還。あっさりと逆転した。さらに、5番・高山が犠打を成功させて、2、3塁とすると、6番・菅沼の左翼前適時打、7番・鈴木はスクイズ、8番・吉永の左翼前適時打と計6得点を挙げたのである。
恐るべし、日大三打線。
あっという間の再逆転には、言葉が出なかった。
それでも、開星は諦めなかった。
8回表には、7番・安原が二塁打で出塁すると、8番・安田が職前へ適時打を放ち、1点を還す。9番・黒崎も右翼線二塁打で好機を広げると、2死から2番・秋国が左翼前へタイムリーを放った。後続が打ち取られたとはいえ、2点を還す反撃を見せたのだ。
9回表も見せ場。
2死から安原が粘って四球で出塁すると、8番・安田は内野安打。この試合何度もあった下位打線からの反撃には大きな期待を抱かせるものだった。しかし、最後は日大三のエース・吉永の気迫が勝ち、9番・黒崎は空振り三振。
壮絶な打激戦は終止符を打った。
結局、終わってみれば、日大三打線の破壊力が改めて証明された試合になったが、一歩も引かなかった開星打線の反撃も、また見事だった。
とはいえ、この試合で1点だけ気がかりになったポイントがあった。
6回裏、開星が1点を逆転した後の日大三の攻撃でのことである。無死満塁、4番・横尾を迎えた時の、開星の守備陣形が少し気になった。
1点リードで無死満塁。当然、開星守備陣は前進守備を敷いた。
この戦略が正しかったか、間違っていたかではなく、この局面で前進守備ではなく、セカンドゲッツーを取る陣形を敷く決断ができるかどうか。そのことを投げかけたい。
開星・野々村監督は言う。
「あの場面ではリードしていたこともあったし、(投手)森の投げる球に、日大三打線がボテボテの当たりを打っていたこともあったので、それに期待した。だから、1点を守る陣形を取りました」
普通はそうだろう。
1点リードで走者が三塁にいる。しかも、ノ―アウト。ここで、同点を諦めるという選択をするのはかなり難しい。実際、これまでいくつもの試合を見て来たが、そんな戦略を取ったチームはほとんど見たことがない。
だから野々村監督の指示は決して間違いではないと思う。
しかし、少し考え方を変えてみると、6回裏という、まだ終盤までイニングがある中で、さらには日大三打線が強力だと考えると、大きなけがをしない守備陣形の方がリスクは少なくて済む。そういう選択肢があってもいいのではないかと思ったのだ。
「指示で前進守備でしたけど、(横尾の)タイムリーはそんなに良い当たりじゃなかった」と前置きする一方で、「定位置ならゲッツーを取れたと思います」と二塁手の黒崎は証言する。続く、1死、2、3塁の場面でも開星は前進守備を敷いたが、6番・菅沼の打球は遊撃手後方に落ちるポテンヒットだった、定位置なら取れている打球だった。
飛んだ打球に対する結果論だという指摘があるのは分かる、
ただ、今、問いたいのは、あの陣形が間違いだったかどうかではなく、あの場面で1点を捨て、同点にする覚悟があるチームが存在するのかどうか。ふと、頭をよぎったのである。
これからも日大三の優勝候補は揺るぎないものであるだろう。この試合からも分かったように、日大三打線の潜在能力は、出場校中で、頭一つ、二つ抜け出ている。簡単なことでは抑えられないだろう。
だが、そのカギは、対戦する投手陣ではなく、もっと他の部分にあるのではないかとそんな気がしてきた。
思い切った守備陣形も、その一つなのかもしれない。
(文=氏原英明)