試合レポート

東大阪大柏原vs大阪桐蔭

2011.07.31

大金星を勝ち取った田中采配

 さすがはセンバツ優勝経験をもつ田中秀昌監督である。

第93回全国高校野球選手権大阪大会決勝は、東大阪大柏原・田中監督の采配がさえた試合だった。

 まず、試合の始まりから、田中采配がズバリと当たる。
1回裏、1死から2番・末武が出塁すると、3番・花本太のところでエンドランを仕掛け、これが成功。1死・1,3塁の局面を作ったのだ。ここで、4番・石川慎が中前適時打を放ち、1点を先制。手堅く送ってではなく、いきなりの仕掛け。見事な先制攻撃だった。この作戦を田中監督はこう説明する。
大阪桐蔭という横綱相手に1回から送りバントじゃどうにもならないと思って、動かしたろと思って、攻めました」。

逆転されてしまうのだが、この攻撃があとあと響いてくる。

3回表、大阪桐蔭は反撃。失策からの走者で好機をつかむと、5連打で4得点を挙げたのだ。

 しかし、ここでも、田中采配は冴える。
今大会、これまで奮闘してきたエース・福山を下げたのだ。決勝戦で大敗するチームによくありがちのケースだが、決勝戦となるとやたらとエースにこだわり過ぎる起用をする監督がいるが、田中監督はあっさり代えたのだ。
「4連打なら、まだ我慢したのかもしれません。5連打だったからね。それに、もともと、福山一人で今日の試合が抑えられるとも、思っていませんでしたから。スパッと変えました」

代わりに登板した白根は4回表に、2失点を喫してしまうが、そこからは粘り強く投げた。



 そして、ポイントとなったのが4回裏の東大阪大柏原の攻撃である。
先頭の石川慎が左翼前安打で出塁すると、5番・西田に送りバントを命じたのである。4点ビハインドを考えると強攻策を使いたがるところだが、「点差があると、攻撃が荒くなってしまいがちになる、まず1点、あと1点と積み重ねていって後半勝負に持ち込みたかった」という田中監督の狙いは、犠打成功の後、ワイルドピッチで1死・三塁。6番・山崎の遊撃ゴロの間に1点を返すという形で実を結んだのである。

5回を迎えた時点で、4点差。まだまだ、大阪桐蔭の優位は動かなかったが、手堅い作戦を取ってきたことで、大阪桐蔭にプレッシャーを与えることができたのである。大阪桐蔭・西谷監督は「あの1点で、後半勝負に持ち込みたいのだなぁというのを感じました」と語っている。

とはいえ、差は4点。大阪桐蔭からすれば、考えすぎだったのではないかというのが正直な感想だ。大阪桐蔭ほどの技術力、戦術眼があれば、逃げ切れない点差ではないと思えたからだ。

 ただ、そこには試合前からの大阪桐蔭ベンチの弱気な采配が奥底にあったのも、また事実である。

大阪桐蔭は、この日、偵察メンバーを使っていた。東大阪大柏原の先発が右腕の福山かどうか読み切れずに、7番打者のところに、投手の平尾を入れていた。
大阪桐蔭は横綱ですやん。そんな、偵察メンバーって、プロやないんやから必要ないと思います。大阪桐蔭の采配に弱気さを感じました」と田中監督は言う。もちろん、西谷監督にも思惑があったが、結局は、戦力があり過ぎるあまりに、相手ベンチに弱気な姿勢を露呈する形になってしまったのだ。

東大阪大柏原大阪桐蔭の攻撃を、5、6、7回と無失点に切り抜けると、試合は徐々に傾いていったのである。
そして、7回裏、東大阪大柏原に反撃の波がやってくる。

先頭の7番・松浪が右翼前安打で出塁すると、田中監督はここで白根に変えて、代打・花本元を代打に送り、勝負を掛けてきたのだ。花本元はここで、左中間を破る適時二塁打を放つ。4回の攻撃では手堅かったが、ここは強攻で1点を返した。見事な積極策である。9番・石川司の代打・中河が犠打を決めて1死・三塁、1番・望月は遊撃フライに倒れるも、2番・末武が左中間を破る適時二塁打。さらに、3番・花本太中前適時打を放ち、1点差としたのである。

1回裏はエンドラン、4回はバントで手堅く行き、この回は積極的に攻めた。
まさに、状況を見きった田中監督の見事な采配だった。
8回裏、またも好機をつかんだ東大阪大柏原は1死満塁から9番・中河が犠牲フライを放ち、ついに同点。試合を振り出しに戻したのである。



 一方、8回表からマウンドに上がっていた花本元は大阪桐蔭打線をぴしゃりと抑える。まさに「3人で考えていた」という田中監督の見事な継投が、ここでも光っていたのである。
こうなると、試合は完全なる東大阪大柏原のもの。

9回裏、先頭の2番・末武が右中間を破る三塁打で出塁、1死後、大阪桐蔭ベンチは満塁策を指示。これが、結局は裏目に出て、6番・山崎が死球。押し出し死球となり、何とも残酷な結末で勝負が決したのである。

ここでポイントとなるのが満塁策だ。結果論的に考えれば、満塁策は失敗だったということになるが、最後が死球だったからという結果を外して、この作戦を考えてみたいと思う。

 西谷監督は先頭の末武が三塁打を放った後、3番・花本太には勝負に行かせている。これが結果三振という結果を生むのだが、そのあとの石川慎、西田に敬遠の指示を出していた。

 西谷監督は「満塁策が間違いとは思っていません。無死からいきなり満塁とするよりも、1死を取って満塁とする方が打者に与えるプレッシャーがあると思った」と話している。

しかし、東大阪大柏原の立場からすると、この場面で一番怖かったのは大阪桐蔭の投手・中野が「個」の力を見せつけることだった。3番・花本太が三振を喫した時、3者連続三振もよぎったのだが、三振を狙いながら満塁策とせずに最初から満塁策とすることで、中野の余裕をはぎ取ってしまったのは紛れもない事実だろう。

西谷監督も「投手のことを考えると、1死をとってからの満塁策だったので、少し動揺させてしまった。選手に負担を掛けてしまい、残酷な終わり方をさせてしまった」と悔いた。

「一時は5点差がありながら、勝利に導けなかった。本当に、監督としての力不足を感じます。選手はできることをやってくれました」。
敗戦の責任を選手に押し付ける高校野球指導者が多い中、選手のせいにしない西谷監督の姿勢は見事に尽きるが、結果的には、田中監督の采配ばかりが冴えた試合になった。

「平幕が横綱を倒した大金星です」。

田中監督はそういって、悲願の初出場を果たした選手たちをほめたたえ、優勝インタビューを聞き入った観衆を沸かせた。
最後の最後まで、田中監督の独壇場だった。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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