社vs神港学園
小さな1番打者
あのひと振りが全てだったのかもしれない。
コールド勝ちをおさめた試合後の社の囲み取材で、社の橋本智稔監督は、終盤に大量点をもぎ取った打線を称えるのかと思いきや、開口一番に「ヒヤヒヤでしたわ」と笑顔をこぼしたのだ。
相手は強力打線が自慢の神港学園。3番の横川駿は83本、4番の山本大貴は40本以上の本塁打を記録しており、どれだけ点を取っても気が抜けない。それだけに、社サイドとしては先手を打つきっかけを少しでも早くつかみたかった。
そんな中、1回表の社の攻撃だった。試合開始のサイレンが鳴り止んですぐに、1番の近本光司がライトオーバーの三塁打を放ったのだ。
2球目のストレートを迷いなく強振した近本は俊足であっという間に三塁に到達。まだ試合が始まったばかりの緊張感が抜けきれないまま、いきなり無死三塁という場面を作られた神港学園のエース・河野太郎はいきなりプレッシャーを与えられたのだろう。直後に2番の川居直人に左翼に犠飛となる打球を運ばれ、あっさりと先制を許してしまった。
その裏の神港学園は、社のエース・阿比留拳から2安打を放つなど二死満塁と攻め立てたが、阿比留が三振を奪ってピンチを脱した。
神港学園は、出鼻をくじかれた状況を打破することが出来なかった。
ここから阿比留の左腕がうなりを上げていく。面白いようにスライダーが低めに決まり、相手打者のバットは空を切った。
三振の数はどんどん積み重なり、5回を終えて10個にまで上った。
得点は2-1と社が1点リードで5回を折り返したのだが、この1点差は予想以上に重く感じた。
快投を続ける阿比留の存在感の大きさもそうだったが、初回の近本の思い切ったバッティングの余韻が残っていたようにも思える。
「まず、自分が塁に出て雰囲気を作りたかったんです。自分が出れば、チームが勢いに乗ると思いました。真っすぐかスライダーを狙っていこうと思ったんですけれど、ストレートが甘く入ってきたので、迷わずに振りました。阿比留さんを少しでも早く援護したかったので…」(近本談)。
身長は168cmと、体は大きい方ではない。だが、思い切りの良さとシュアな打撃を買われ、昨秋から1番に座っている。
「小柄でそんなに目立つ存在ではないけれど、練習では全てを吸収しようとするくらいひたむきな子。試合でも、出塁すれば足でかき回したり、何とかしようとしてくれるので頼もしいんです」と、指揮官もその存在の大きさを認める。
8回には、猛攻の口火を切る三塁打を再び放ち、チームは一気に5得点を挙げた。
「今夏、本当は調子が良くなかったんです。打ちたいという気持ちが強すぎて、体が前に突っ込んでいたのが原因だったので、今日はとにかくボールを見ることだけを考えました」。
それでも初戦の神戸甲北戦ではホームランを放つなど、全試合で安打を放ち、チームをけん引し続けている。
ここまで4試合、常に安定した試合運びを見せている社。その攻撃を支えるのは、168cmの伏兵だった。
(文=沢井史)