専大玉名vs秀岳館
天を見上げて
この日の第一試合で三季連続の甲子園を目指す九州学院が、今大会ノーシードの熊本工に敗れ、興奮冷めやらぬ[stadium]藤崎台県営野球場[/stadium]。
全校応援の地響きのような歓声に、ブラスのリズムが絶妙なハーモニーを奏で、選手はもちろん熱狂的なファンや夏休みに入った子供たちの気分を高揚させてくれる。
ひとことで言えば“熱狂”である。
低学年だろうか。スタンドにいた小学生数人が、こんな会話をしていたことが聞こえてきた。
「○○のサインもらえるかなあ~」「オレも欲しい」「でも、人がいっぱいおるけん無理じゃないと~」
そんなことを言わせるほど、熊本大会準決勝第二試合、専大玉名vs秀岳館は熱狂に包まれていた。
いや、凄い。本当に。
「夏の大会は気力だと思うので気力でいきます」
準々決勝のあと、専大玉名の園道工也が、そう話していた通り、園道は“気力”で投げ抜いた。
3回途中から2年生エース・江藤秀樹とバトンタッチし、5回こそ2番・橋本勇哉に三塁打を打たれるなど2点を献上したが、常時140キロ台のストレートでねじ伏せるように秀岳館相手にひたすら投げ込んだ。
普段の園道は、3番・遊撃手として打って、走って、守ってと三拍子揃った注目選手であり、もちろんチームの要でもある。そんな中、今大会は火消し役としても試合を締めくくってきた。そしてこの日は、いつもより長い6回2/3をロングリリーフでの熱投だ。
そんな園道の“気力”に同じ方向を見ている専大玉名ナインが応えないはずがない。
8回、代打攻勢をかけてきた山本国臣監督の采配が的中し、3安打と4四死球を絡め、一挙に5点を入れた。
それを園道と鉄壁の野手陣が守り切り、最後の打者を三ゴロに打ち取ると園道は天を見上げてガッツポーズした。
「万全の状態ではありませんでしたが、気力でやりましたね。さすが園道です」
試合後、山本監督は吹き出る汗を拭いながら熱投の園道を称え、指揮官を「さすが」とまで言わせた。
園道もベンチ、スタンドにいる控え部員や保護者などに向けて感謝の言葉を口にしたが、家族に対するこんなコメントも残してくれた。
「中学時代にコーチをしてくれていた尊敬する父や母、それに兄弟も応援に駆けつけてくれているので『家族のおかげ』にも感謝しています」
自らを含めて7人いる兄弟など大勢に囲まれる園道であるが、じつは園道が中学2年の時、3つ年上の兄を亡くしていた。
「いまの姿を兄に見てもらいたかったですけど・・・いや、上(天国)から見てくれていると思います」
最後に天を見上げたことを本人は口にしなかったが、勝った瞬間、そんな兄に向けて自然と天を見上げたのかも知れない。
決勝戦もいつも通りに仏壇の前で手を合わせて藤崎台に向かうという園道。
天国の兄のためにも26日の決勝戦、魂を込めて気力で投げ込む。
(文=編集部:アストロ)