試合レポート

西武台千葉vs大多喜

2011.07.17

西武台千葉vs大多喜 | 高校野球ドットコム

鈴木洋平(西武台千葉)

試合の流れを読んだ西武台千葉から見えたもの

青葉の森の第2試合は野田市の強豪・西武台千葉と緒戦で八千代松陰を破っている大多喜の対決である。八千代松陰に勝利し勢いに乗っており、旋風を巻き起こす可能性を持ったチームである。

1回の表、西武台千葉は2番が投手前安打で出塁すると3番金藤のライト線を破る長打を放ち、ホームイン。西武台が幸先良く先制する。出だしは良いとみられた西武台千葉だったが、エース斎藤修平が捕まる。2回の裏、大多喜は4番弧田が四球で出塁。5番石井のサードゴロの間に二進し、6番村上のレフト前ヒット。さらに7番平岡の右中間を破る長打で大多喜が同点に追いつく。さらに8番元吉のライト前タイムリーで逆転。二死二塁となって1番川崎のタイムリーで4対2にする。

西武台千葉はこの回限りで斉藤は降板。二番手に鈴木洋平を送る。
背番号の18の鈴木洋平は昨年からエース格として活躍してきた投手だ。
「斉藤の調子自体は悪くなかったのですが、ここで流れを変えるために当初より早く鈴木を投入しました」
と説明する西武台千葉の皆川浩一監督。斉藤は5回まで持ってほしいと思っていたが、予想より早い鈴木の登板になった。

だが大多喜にこれ以上、流れを持って行かせないためにも0点にする必要があった。
鈴木は好投し0行進。大多喜の先発・磯野も好投。右スリークォーターからストレート、変化球を淡々と投げ分け打たせて取るスタイルで西武台千葉打線を抑えていき、5回を終わって4対1と大多喜のリード。

6回の表を攻撃の前に皆川監督は選手たちにこう伝えたという。

「グラウンド整備が終わって6回からが勝負だよ。相手投手は初戦から投げ続けている。ここからが狙い目だ。1点ずつ取り返していけ!と伝えていきました」
指揮官の読みに選手たちも感じたのだろうか。6回から当たりが出始める。4番皆川晋のセンター前ヒットで出塁。5番栗山はライトフライに倒れたが、6番鈴木洋がセンター前ヒットで出塁。7番の栗田がライト前ヒットでまず1点を返す。
さらに小川のタイムリーで1点差に迫る。
安定した制球力で打ち取っていた磯野だったが、徐々に制球力が甘くなっていた。西武台千葉の攻撃の手は緩まない。
二死から4番皆川がレフト前ヒットで出塁。5番栗山もライト前ヒット、6番鈴木洋も四球で満塁として先ほどタイムリーが放った栗田が再びタイムリーを打ち同点。そして8番小川の押し出し死球で逆転に成功する。


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9回、鈴木の肩に手を当ててアドバイスする皆川監督

さらに8回の表、皆川のレフト前タイムリーで1点を追加し、6対4。貴重な追加点を入れた。
だが八千代松陰を破り、そしてこの試合でもいきなり4点を先制している大多喜。このままでは終わらないと思った。

9回の裏、8番元吉がレフト前ヒットを放つと9番磯野和もセカンド強襲内野安打で無死1,2塁のチャンスを作る。途中出場の藤平がしっかりとバントを決めて一死2,3塁。だが平野が倒れ二死となる。しかしここからの粘りが素晴らしかった。

3番斉藤が初球のストレートを弾き返しレフト前タイムリーで1点差に迫り、二死1、2塁で4番弧田を迎える。弧田は冷静であった。きわどい球はしっかりと見送り、そして打てない球はカットしていく。だんだんタイミングがあってきたのか、真正面のファールも増えてきた。これは不用意にいくと危ないと思った。その矢先であった弧田は高めに浮いた直球を強振。打球はあっという間にライトの頭を超える長打。
二塁走者が生還し、大多喜が土壇場で同点に追いついた。

5番石井はあるかして、6番村上と勝負。2-2となり、5球目にチェンジアップで空振り三振。西武台千葉がサヨナラのピンチを切り抜けた。皆川監督はすぐにベンチから飛び出し、鈴木の肩に手を当ててこう言った。
「お前、自分が成長するためには良い勉強になっているぞ!」

この場面にしてこの言葉が出るとは。だが皆川監督は選手を励ますような言葉は発すのは自分でも珍しいことだという。
「いつもなら怒っているところでした。2年生から投げていますが、ああいう投球をしたら注意するほうが先ですね。ただ彼は3年生ですし、あえてこの発言をしました」
説明した。

鈴木洋にとってこれほど追いつめられながら投げる試合はない。それを振り切るには並み大抵のメンタルでは抑えられない。あの三振は見事だった。10回の表、鈴木を援護すべく、攻撃は暴投で1点を勝ち越し。
その裏、二死満塁まで追いつめられながらも3番斉藤をライトフライに打ち取りゲームセット。西武台千葉大多喜の猛追を振り切り、4回戦進出を決めた。


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マウンドに集まる西武台千葉ナイン

まさにぎりぎりの試合であった。
大多喜の終盤の粘り強さには執念というより怖さを感じたと話す皆川監督。
特に夏というのは負けたら終わりの世界。
それだけに追う側のエネルギーが大きく、守る側のプレッシャーは半端でない。

でもこういうゲームは予測できたという。
多くは語らなかったが、ここまでの試合経過は試合の流れを読んだ見事な采配だった。脅威を感じても慌てることはない。どっしりとした野球はできている。

西武台千葉志学館、流経大柏と私学の強豪校の野球を見てきたが、マイナスの状況をしっかりと想定した野球が出来ていること。
志学館の川俣監督は「こういう試合だから守り抜かなければならない」と堅いディフェンスで無失点。
流経大柏の松田監督は選手たちの粘り強さをどっしりと采配ができていると答えている。

ここまでAシード、Bシードが破れることなく順当に勝ち上がっているが、勝てるチームというのはマイナスを想定し、慌てずに攻略法を編み出すことができているから脆さを露呈することなく勝ち進んでいるのではないだろうか。
試合の流れを読み勝利した西武台千葉の野球から追われる立場にある強豪校の戦い方が見えた。

(文=編集部:河嶋 宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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