試合レポート

一条vs橿原学院

2011.07.18

一条vs橿原学院 | 高校野球ドットコム

橿原学院・日下部

勝敗をわけた10回の攻防

「こっちが打たなアカン打者のとこを抑えられて、向こうはしっかり打ってきた」。

橿原学院・日下部、一条・井村の両ドラフト候補が先発し、延長10回までもつれた大熱戦。ドラフト候補の二人は途中降板したが、最後はほんの少しの余裕の違いが勝負を分けたゲームだった。

冒頭は、橿原学院・竹村監督が敗因を語ったものである。彼の言葉にあるように、延長10回表裏の攻防は、互いに訪れた二死・二三塁の局面を抑えたか、抑えられたかで雌雄は決したが、その分かれ目は細かい部分にあった。

10回表、橿原学院の攻撃。
橿原学院は2死・2、3塁で3番・前田を迎えたる。この時、一条・兼元監督は伝令を送っている。言葉は実に明快なものだった。
「勝負を急ぐな。二人で一つのアウトを取るように」。

この指示は一塁が空いているからだけの言葉ではない。

橿原学院は、次に迎える4番の栗山が9回表の攻撃で交替していた。いわば、3番の前田を迎えた時点で、一条バッテリーは勝負を急がなくても良い条件下にあったのである。

事実、一条バッテリーは、前田の初球を、外のボールになるスライダーから入っている。バッテリーの意図は「逃げ」ではなく、「勝負」なのだが、その慎重な入りは、兼元監督の指示を十分、頭に入れてのものだ。その後3ボール2ストライクとなると、彼らが勝負球に選んだのは、またも、ボールになるスライダーだった。ストライクを欲しがらず、ボール球で勝負にいったのだ。

前田のバットは空を切った。
「空振りを取りに行きましたけど、ボール球になってもいいと思って投げました」と投手の米田が言えば、捕手・田中皓は「変化球で勝負した球。完璧なところに決まりました」と、話していた。


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歓喜の一条ナイン

代わって、一条の攻撃。
橿原学院の2番手投手・生田の制球が乱れたこともあって、無死満塁の好機を迎える。しかし、ここで、生田は踏ん張りを見せて、5番・田中皓は三塁ゴロのホームゲッツー。2死2、3塁となった。

まさに、10回表の橿原学院の攻撃と同じ局面だ。

一条ベンチはここで動く。
指揮官が「技術的にはレギュラーを貼ってもおかしくない選手」という左打者の片山を代打に送った。片山は初球をファール、ボールを挟んだ後、3球目のスライダーは空振り。1ボール2ストライクと追い込まれた。

そして、4球目。橿原学院のバッテリーは、スライダーで三振を取りに行った。

真ん中だった。
「僕の中では、空振りした2球目のスライダーにタイミングが合っていないという感じではなかったんですけど、4球目は追い込まれていたし、振っていくつもりでした。球は真ん中で、甘かったと思います」

片山の打球はショートの横を抜けるサヨナラヒット。試合は決した。
橿原学院の捕手・北村はボールになるスライダーを待っていたという。生田も理解していたが、一条バッテリーが思ったような、「ボールでも良い」という感覚ではなかった。

そこが、両者を分けた差だ

10回表は、3ボール2ーストライク、
10回裏は、1ボール2ーストライク。

ボールを投げられる余裕があったのは10回裏の橿原学院バッテリーのはずだが、打順の巡りやメンタル面の負担も含めて、余裕を持っていたのは、一条だった。

両指揮官の言葉が如実に、結果を示している。
竹村監督は、こう振り返る。
「ボール球で良いという話は選手たちにしていました。球が甘かった。一生懸命やってくれたと思いますが、しっかりと指導できなかったということです。生田は故障もありましたし、余裕を持って投げるには限界もあったので、ボールで勝負するのがきつかったのかもしれません」

一方の兼元監督の言葉はこうだ。
「1点を取られても、まだ裏の攻撃があるというのを頭に入れた上で勝負してもらいたかった。守備に行く時点で、橿原学院の4番が交替しているということは選手たちも頭に入っていたと思います。1点を惜しむと、ストライクを欲しがるので、そういうことのないように。勝負を急がずに、最高の球を投げてくれたと思います」

10回表裏の1打席が分けた試合。いや、1球が分けた試合。
余裕を持って攻めた一条に軍配が上がった。

(文=氏原英明

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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