智辯学園vs五條
4番大西(智辯学園)
『チームの中心』4番大西の勝利を引き寄せる一振り
いったい、彼の本塁打を何本見ただろうか。
打球を見上げてダイヤモンドを回る、智弁学園の主砲・大西の背中を見みながら、そんなことを想った。
高校通算本塁打は、本人いわく「20本をちょっと超えたくらい」。公式戦の本塁打は5本というから、決して、多い数字ではない。
にもかかわらず、彼の姿が色濃く蘇るのは、それほどのインパクトを与えているからだろう。
特に覚えているのは昨年秋のことだ。
準決勝の奈良朱雀戦、決勝の天理戦で、2試合連続本塁打を放った。しかも、2試合とも、先頭打者本塁打だった。
奈良朱雀戦は近畿大会出場の切符が掛かった大事な試合であり、決勝の天理戦は私学2強の意地を掛けた戦い。そんな試合の初っぱなに大西は本塁打を放っていた。印象に残るはずである。
今日の試合も、また、痛烈なインパクトを残した。
試合は五條が1回表、二死・二塁から4番・田中の適時三塁打で先制。智弁学園も3回裏に、大西の適時打で同点。接戦を展開していた。
とはいえ、試合内容としては、智弁学園は五條のエース・浦谷の攻略に苦心していた。右アンダースローから緩い球を投げ込む、浦谷は、いわば、軟投派だ。緩い球で打者の軸を揺さぶり、バッティングをさせない。智弁学園打線はまりつつあった。
それを打開したのが大西だった。
横濱(智辯学園)
5回裏、二死・二塁で打席に立った大西は、2ボールからの3球目を強振し、左翼スタンドに放り込む2点本塁打。打球を放って5歩程度で本塁打を確信し、大西はゆっくりダイヤモンドを回ったものである。
「本塁打を狙ったわけじゃないんですけど、カウントが2ボールだったので、甘い球が来たら、打とうと思っていました」
大西の一発で吹っ切れた智弁学園は、そのあと、爆発した。
4長短打で3点を加えると、6回裏にも、7番・横濱の2点適時打などで、計4得点を挙げた。9-1とし、終わってみれば、7回コールドの圧勝だった。
昨夏は4番だった大西は、昨秋は1番。最後の夏になり、定位置の4番に返り咲いた形になる。いろんな想いをこめての今日の打席だったという。
「4番はチームの中心だという自覚をもってやらなくてはいけないと思っています。今日は、序盤は苦しみましたけど、智弁は一人が打つと乗ってくるチーム。自分でいったろとずっと思っていました」
チームを乗せる一発。
やはり、この男の一打は、インパクトがある。
(文=氏原英明)