智辯和歌山vs新宮
高嶋監督の激が飛ぶ智弁和歌山ベンチ
欠如
「まあ、こんなものでしょう」。
試合後のインタビューに応えた智辯和歌山・高嶋仁監督の口調は絞り出すような感じだった。
『初戦の硬さ』『強化練習による体力的な疲労』など複数の要因はあったのかもしれない。しかし、それとは違う何かしらの違和感を覚えた智辯和歌山の初戦だった。
スコアブックを見つめ直して試合を一から振り返ってみて感じたのは、〝一球に対する執着心〝が欠けていたのでは?ということ。
「キャッチャーですね。あんなに変化球を使っていては・・・」。
指揮官が名指ししたのは捕手の道端俊輔(3年)。言うまでもなく智辯和歌山で最も経験のある選手だ。変化球の多い配球については、道端にも考えがあるようでここでは書かない。
ただ気になったのは後逸(記録は暴投)が3回あったこと。
これまでも重要な場面で道端が後ろに逸らす場面は何度かあったが、この日はどこか違って見えた。
前半に一度逸らしたのを引きずったのかもしれないが、明らかに彼らしくない部分が多かった。
特に大きなポイントに見えたのが。4回の2度目の後逸。この時、投手は2番手の土井健太郎(2年)に代わったばかりだった。
土井は夏の大会初めてのベンチ入りした下級生。その代わりっぱなに後ろに逸らす。
これでは、初登板で緊張する下級生投手はますます硬くなり、一つ間違えば投手が自信を無くしかねない。
経験豊富な捕手の役割の中には、経験のない下級生を育てることも含まれる。
夏独特の硬さがあったとはいえ、やはりどこかおかしかった。
上野山奨真
さらにこの日は記録には残らないようなミスを何度も繰り返した。守備の時なら一歩目のスタート、攻撃なら次の塁を貪欲に狙う姿勢が欠けていた場面が多かった。
これも〝一球に対する執着心〝の欠如である。
「精神的に追いこまれているのでしょう」と指揮官はインタビューでこそ務めて冷静に応えていたが、試合中の怒鳴り声はいつにも増して大きかった。
5回のグランド整備時のミーティングでは、ついに地面に投げつけたペットボトルが勢い余ってグランドに飛び出るほど。選手は慌てて取りにいったが、ベンチの空気は重く、常に明るくノビノビやっていた新宮とは両極端に思えるほどだった。
欠如が見えた選手を、前半から選手をドンドン代えた高嶋監督。
投手陣も先発した古田恭平(3年)と土井に関しては予定通りだったが、3番手の上野山奨真(3年)は「予定してなかった」と認めた。
さらにエースの青木勇人(3年)まで「(最後に)ランナーを出したら行かせるつもりだった」とベンチ前で準備をさせていたほど。
この日は苦戦ではなく、明らかに自分達の野球をできていなかった智辯和歌山。例年、大会前半は苦戦することが多い。でもそれとは違う執着心の欠如が気になった試合だった。
(文=松倉雄太)