都立江戸川vs開成
開成の逞しい二番・長江君
激しい攻防、江戸川が辛くも開成に打ち勝ち逃げ切った
すさまじい打ち合いの試合は、2時間40分かかったが、最後は、江戸川が辛くも逃げ切った。江戸川13安打、開成10安打の打ち合いだったが、敗れたとはいえ、開成の最後まであきらめないしぶとさと、思い切りのいい打撃が光った。
開成と言えば、ここ何年か東大合格者数でトップをキープしている全国屈指の超進学校である。ちなみに今年も172人の合格者を出しており、2位の灘が2ケタなのでぶっちぎりと言っていい実績だ。そんな開成だが、野球部が逞しく活動していることはあまり知られていない。
指導するのは、太田(群馬)から東大へ進んで、卒業後は開成の教員として野球部の指導をしながら東京六大学の審判員も務めている青木秀憲監督である。青木監督の指導は、徹底した打撃力強化と積極果敢な攻めの野球である。その意図の背景には、東大がリーグ戦で勝てないのは打てないからだという考え方がある。打てる東大にするために、開成から打てる選手を送り込みたいという考えでもあるのだ。
はからずも、今年度の東大には開成の選手の名前はない。ただ、青木監督は、「今年のウチの選手からは、何人か(六大学で)やれる選手は出るのではないでしょうか」というように、久しぶりに打撃に関しては手ごたえのあるチームとなった。それを示すかのような、この日の試合ぶりだった。
ベンチからは絶えず、「強い打球を打て」と、檄を飛ばしていた。そして、さらに青木監督が評価したのは、1点を追う9回の攻撃で、1死後四球を得ると、代走として送り込まれた池田君が、立て続けに二盗、三盗を決めたことだ。「あれは、すべてノーサインです。自己判断で、いけると思って走ったんです。この判断力と、決断力。これは、相当高いレベルと意識になっているということです」と、結果的にはあと一本が出ずに敗れはしたものの、戦い方には満足していた様子だった。
リリーフした開成の大木君
6回に一気に同点に追いついた集中力も見事だったが、東大生予備軍を多く抱えている青木監督に、「集中力と決断力が持ち味」と、言われてしまうと、こっちとしても「ああ、そうですか」と、敬服せざるをえない。この日の試合では、それを具体的に示してくれた。まさに、逞しい開成野球だった。
そんな開成に苦しめられた江戸川だったが、同点のまま迎えた8回、三番露久保君が二塁打で出ると、四番久保君がしぶとく中前へ返して、決勝点を挙げた。この、集中も素晴らしかった。江戸川は、露久保君が5安打1打点、久保君が2安打2打点と、打つべき中軸がしっかりと仕事をしていたことが、結果的には苦しい試合を何とかものにすることにつながった。
投手は、最初から継投ということを意識していたのだが、先発荒川君が3イニングを投げ、二番手左の高野君につなぎ、6回、集中打を浴びたところで、エースナンバーを付けた玉田君を送り込むことになった。ただ、正直なところ芝浩晃監督は、この回は頭から玉田君で行こうかとも考えていたという。ただ、次の回に投手の打順があるのでそこで代打をと考えて、あと1イニングを抑えてくれればと考えたという。
それが、結果的には裏目に出て同点とされてしまったのだが、「やはり、先のことを考えてはいけませんね。必ず、心配した通りになってしまいます。継投の難しさを改めて実感しました」と、母校監督に就任して3年目の35歳の指揮官は、戦いながら、自分も勉強中という姿勢を崩さなかった。
そして、1回戦の逆転勝ちに続く苦しい勝利に、「相手は、青木先生の指導でバントしないでガンガン打ってくることはわかっていたのですが、思っていた以上に迫力があって、怖かったですね。本当に、毎試合、胃が痛くなるような試合です。大会が終わったら、ぶっ倒れそうです」と、言いつつも、苦しい試合をものにして安堵の表情があった。
江戸川は、この4月からは元阪神投手の伊達昌司コーチも就任したが、「伊達先生のアドバイスも効いています」と、芝監督としても、強い味方を得た思いのようである。
(文=手束 仁)