大東大一vs順天
望月君(大東大一)
猛暑の中の乱戦、ミスもあったが、それもまた高校野球
この日も、東京都内は最高温度35℃を越えていたという猛暑日だった。
まして、すり減って薄くなった人工芝の照り返しが激しい[stadium]神宮第二球場[/stadium]である。グラウンドレベルでは40℃を越えていたのではないだろうか。
そんな中での2時間20分の戦い。悪送球や不用意な四死球、ボーク、打撃妨害といった記録に表れたものだけではなく、取れるアウトを取れなかった、安易に余分な塁を与えてしまったなど、バラエティに富んだミスもあった。指摘することはいろいろあるかもしれない。
しかし、夏の大会の初戦。
しかも、今年の東京都は春のブロック予選が震災の影響で中止されており、多くのチームがいきなり、夏の大会が最初で最後の公式戦ということになっている選手も少なくない。
この両チームもそんなチーム同士である。それだけに、初戦の硬さは例年以上だったのかもしれない。さらに、この暑さである。過度の緊張で却って集中力が切れてしまうこともあったであろう。順天の先発・津田君は、8回途中で足がつってマウンドを降りるというアクシデントもあった。
そうした状況での試合は、二転三転した乱戦模様となったが、最後は攻守に一日の長のあった大東文化大一が振り切った。4―0とリードしながら、4回にビッグイニングを作られて逆転をされながらも、すぐに追いつき、さらに突き放すという形で、粘る順天を振り切った。
5回に一旦マウンドを退いていた黒瀬君が、7回から再び登板すると、気持ちの整理もできたということもあって、3イニングは1~3回まで、3者凡退で抑えていたのと同じようなリズムを取り戻して、しっかりと抑えて振り切った。再登板での好投は見事だった。
試合後、大東文化大一のロッカールームからは、古和田郁生監督の激しい叱咤の声が響いていた。
「4点もリードしていながら、簡単にひっくり返されてしまって…。もちろん、選手たちは一生懸命にやっているのでしょうけれども…。気持ちを引き締めるつもりで、少し大きな声を出してしまいました。本当は、1日でも長く、彼らと野球をやりたいという気持ちがありますから」と、古和田監督は日焼けした顔に汗を浮かべながら、その本心を話してくれた。
中村君(順天)
負けたら終わりの夏の大会。だからこそ、指導者も、さまざまな思いが錯綜するのだろう。
一度は逆転しながらも、結局再逆転され、追い上げ切れなかった順天。
杉野光永監督は、「いずれにしても、乱戦、接戦になってもつれるとは思っていました。ただ、こうなると最後は、練習量の差、気持ちの差が出てしまうんですよね。まあ、愚痴になってしまいますけれど…」と、62歳のベテラン監督も、2年連続の夏の大会、接戦の末の初戦敗退に肩を落とした。
毎日、夏でも16時50分頃から18時半頃までしか練習が出来ないということ、進学に重きを置いている学校で、もちろん野球部とて優遇される環境ではないこと。
それに、生徒たちもみんな大人しくて、真面目だけれど、勝負ということでいえば、どこかに甘さが出てしまう。そんなところも、十分に承知している。
だから、「7―4で、逆転しましたけれど、そのまま行けるとは思っていませんでした」という気持ちだったのである。
津田君も、6回途中で100球を越えるなど、相手打者にも粘られ、球数を投げ過ぎたことも、へばる要素になってしまった。それでも、味方の失策にも腐らずよく投げたといっていいだろう。それに、順天が4回に見せた集中攻撃の7点奪取の爆発力などは見事だった。
東京都高野連の理事でもある杉野監督は、「これで、今年も高野連の仕事専任になってしまいました」と苦笑しながら、急ぎ着替えて、神宮球場の本部室へ向かう支度をしていた。監督兼大会役員として支える人もいっぱいいる。これもまた、高校野球の側面でもあるのだ。
(文=手束 仁)