下関商vs下関工
11回の逆転に湧く下関商
気持ち
試合開始のサイレンが鳴ってから、やがて2時間半が経とうとした時、スコアボードの得点はR(計)以外すべて消えた。
下関球場のスコアボードは、10回までは表示可能。ということは延長11回に差し掛かったということを表していた。
その11回の表に1点を表示させた下関商のマウンド上には、背番号3の松成亮旺が立っていた。
常に笑顔を絶やさない松成は、最後の打者を三ゴロに打ち取ると今度は最高の笑顔を輝かせた。そして次々とナインが松成のもとに駆け寄り、歓喜の渦となった。
しかし、それまでの間、下関商は苦しい試合展開だった。
8回終了時点で2-5。
9回、3点ビハインドの下関商は、4番・一塁手の松成が左打席に立った。
気迫みなぎる松成は、積極的にシャープなスイングをするも一ゴロに倒れ、1アウト。
だが、ベンチに戻ってきた松成は逆転を信じて三塁側ブルペンで投球練習を始めた。
続く、5番・井上裕太が左前安打を放つと、6番・中村祐耶が右中間を大きく破る適時三塁打。下関商が2点差まで追い上げた。
「4、5、6番がそれまでとらえていたので、ここでチャンスを作ろうと思っていました」
下関商の吉武義正監督は、次の7番で勝負を懸けた。それまで好投を続けていた7番・ピッチャーの黒田翔太郎に代えて永宗祐二を代打に送った。
決勝のホームイン
この場面で臆することなくシャープ振り抜いた永宗の打球はライナーで中前へと飛んでいった。
「一点差だ」
一打席で吉武監督の期待に応えた永宗に8番・柴田勝彦も続いた。しっかりとボールを引きつけた左打者の柴田の打球はレフト方向へ。これが適時二塁打となり、ついに試合を振り出しにした。
そしてその裏のマウンドには、仲間の逆転を信じて投球練習をしていた松成が向かった。
この試合初めてのマウンドが同点の9回裏。しかもこの日2安打を放っている県内屈指の快足を誇る2番・舛本健太をいきなり迎えた。
「正直、不安はあったけど、2番(舛本)を抑えたことで余裕ができた」(松成)
その舛本を左飛に抑えるとこの回、0点でしのぎ、そして延長に入っても松成は冷静だった。
左スリークオーターからカーブ、スライダー、スクリューなどの変化球を操り、粘り強いピッチングでその後もスコアボードに“0”を並び続け、11回の逆転につなげた。
そんな粘り強いピッチングの要因として松成はこう語ってくれた。
「(先発の)井上と黒田が繋いでくれた気持ちを無駄にしたくなかった」
仲間を信じ、それに応えるというその“気持ち”が、白星という最高の笑顔を生みだしたのではないか。
(文=編集部:PNアストロ)