九州国際大付vs日大三
吉永(日大三)
そう悔しがったのは日大三の捕手・鈴木である。試合後半の成功体験があるからそう思わせているのだろう。鈴木は続ける。
「今日の吉永は、そんなに調子が悪いというわけではありませんでした。特に後半はしっかり抑えれていたし。インコースを上手く使ってからは打たれていない」
インコースを使わなかった理由。それは初回の本塁打にある。九州国際大付は1回表、先頭の平原が四球で出塁、一死後、3番・三好が吉永のストレートを狙い打ち、先制の2点本塁打を叩きこんでいる。このホームランが「ストレートと変化球の割合は半々くらい。特に良い時はそうなる」(捕手・鈴木)という吉永の特長を少し狭めてしまったのであろう。
吉永はバランス型の好投手である。最速147キロのストレートや決め球に使われるスライダーやシンカーばかりが取りざたされるが、時折、混ぜられるカーブも駆使して、コーナーをついていく。ストレートに頼るわけでもなく、変化球に任せるでもない彼のスタイルは、今大会、誰も持ち得ていなかったバランスを有するものだった。
それが捕手鈴木の言うよう、「インコース」の使い方によって、前半と後半で結果が異なってしまったのだ。
九州国際大付打線の力強さにも、触れておきたい。
日大三側には、そうした葛藤があったにせよ、彼らの打棒は目を見張るのがあるのも、また、事実である。
彼らのスイングの力強さの秘訣は一体、どこにあるのだろうか。
筋骨隆々では決してない。
だが、力強い。
パワーがあるというより、どっしりしていると言った方が彼らの評価は正しいのかもしれない。
その秘訣は、5回の終了と同時に行われるグラウンド整備の合間に垣間見える。彼らは今大会中、整備の時間帯になると、選手がベンチ前で柔軟体操を始めるが、あの体操こそ、彼らのこだわりはある。
野手の指導を担当している西尾コーチは言う。
「股関節の柔軟性、可動域を広げる。今は、そのことに重点を置いてやっていますね。これは、投手でも同じなのですが、若生監督のスタイルで、土台をしっかりさせようというのがあります。トレーニングをすると言っても、股関節に可動域の広さや柔らかさがなければ、故障します。ですから、まずは、そこから意識して、試合中でもやっているんです。5回のインターバルにやる柔軟は県大会でも、練習試合の時もやっているほどなんです。今年のチームは股関節が弱い方かなと思っていましたが、甲子園の戦いが進むにつれて、良くなってきていると思います」。
例えば、ストレートを打った1回の三好の先制本塁打は力強かったし、3回表の龍、花田の連続適時打は、ともに変化球を打ったが、「ストレート待ち」から下半身のどっしり感があっての強打だった。西尾コーチは続ける。
「上から身体が動いてしまったら、バッティングになりませんからね。股関節を意識することは、試合中のインターバルでも確認するということに表れているかと思います」。
九州国際大付打線の力強さが、バランスの取れた好投手、吉永さえも粉砕したのだ。
だが、後半は吉永が見事な修正力を見せた。そこにこの戦いの面白みを感じたというわけだ。
日大三・鈴木の悔恨は、今になっても遅い話だが、ハイライトを見れば見るほどに、彼の悔しさが伝わってくる。返す返すも、三好のホームランが利いたわけだが、反省から得た成功体験が彼らの野球観を分厚くするのは間違いない。
「今日の、特に後半の吉永のピッチングは去年の神宮大会を上回るものでした」と手ごたえを口にした鈴木と、「夏までには股関節のパワーに加えて、スピードを挙げていかないと着いていけなくなる」という西尾コーチの言葉と。
この対戦にはまだ第2章があるのかもしれない、と。
今から再戦が楽しみになっている。
(文=氏原 英明)