東海大相模vs関西
庄司拓哉(東海大相模)
「時の勢い」
東海大相模の門馬敬治監督、関西の江浦滋泰監督。第3試合で対戦した両指揮官は1969年生まれの同級生だ。だが、チームとしての戦い方はまるで違う。1回戦の中でも注目の一戦は、両指揮官の構想が明暗となってくっきりと表れた。
終わってみれば9対1で東海大相模の大勝。試合後に、江浦監督が発した「完敗です」の言葉が、この試合を象徴していたようだ。チームの潜在能力は互角に見える。その能力をいかんなく発揮した相模と、発揮する術がなかった関西の差がこの結果に繋がったと見る。
門馬監督はこの試合に臨むにあたって、「相手に考えさせる野球をしたい」と話していた。まず江浦監督を驚かせたのが先発起用。エースの近藤正崇(3年)ではなく、2年生左腕の庄司拓哉をマウンドに上げた。公式戦は初登板、それどころか昨秋の大会ではベンチにすら入っていない。3月に入ってからの練習試合では絶好調で無失点を続けていたという。
相模には近藤の他に笠間圭(2年)という右投手が秋はマウンドを経験している。しかし、左腕がくるとは予想だにしていなかった。
門馬監督は、「一回りもってくれれば」という思いだったという。後ろには近藤がいる。
その立ち上がり、関西が1番の小倉貴大(3年)がヒットで出塁する。制球が定まらない庄司は2つの四球を与えて満塁のピンチ。「失点は仕方がない」と考えていたのは捕手の佐藤大貢主将(3年)。門馬監督は「佐藤を信じていた」という言葉を口にした。そして、打者ごとに外野陣に対して守備位置を徹底させていたのだ。
「うちの外野陣が抜かれる確率の方が低い」と自慢の外野の絶対の自信を持っていた佐藤。そして庄司の荒れ球を利用した。結局三振と痛烈なライトライナーでこのピンチを凌いだ。
その裏、マウンドに上がったのは関西エースの堅田裕太(3年)。昨秋の防御率は0・85だが、立ち上がりの厳しさは、明治神宮大会の明徳義塾戦(2010年11月13日)で味わっている。以降はその立ち上がりを課題にしてこの冬場は取り組んできたという。
だが攻める相模は『堅田ならば攻略できる』という自信を持っていた。出塁率の高い1番・渡辺勝(3年)が粘って7球目を弾き返しセンター前ヒット。これで相模ベンチは確信に変わっただろう。2番・臼田哲也(3年)がエンドランを決めるなどして一死二、三塁。そして4番の佐藤主将がセンター前に先制の2点タイムリーを放った。
「堅田投手はカッカしやすい」と強調したのはエンドランを決めた臼田。
門馬監督が狙った通り、考えさせられて冷静さを欠いたのは堅田と畑涼介(2年)のバッテリー。この時点で、このゲームは決まったようなものだった。
関西の渡邊雄貴主将(3年)は、「相手は良く研究してきていた」と試合後に話している。
実は、守備におけるポジショニング、大胆かつ多彩な攻撃。これは相模陣営がしっかり研究していたからこそできていたものだ。
東海大相模は伝統的に相手をしっかり研究する所から入る。これは横浜など神奈川のチームも伝統的にやっていて、いかに神奈川の野球が厳しいかという一端でもある。
東海大相模は今大会でも、秋季大会や直前の練習試合の映像やデータなどで徹底的に研究していた。因みに昨春のセンバツでは、やりすぎて神経質になりすぎていた面もあった。
しかし昨夏、33年ぶりに夏の神奈川を制したあたりから、時の勢いに乗り始めている。関西戦ではその勢いで相手を翻弄した形だ。
ただ、この試合その勢いがなければまったく違った展開になったかもしれない。昨秋の関東大会で門馬監督は「勝負ですから背番号1のエースが先発のマウンドに立つべき」という言葉を発している。その発言からすれば、この日の庄司先発はまさしく奇襲であると言える。
初回に無失点で切り抜け、その裏に先制して好左腕を崩したこのゲームはまさしく『時の勢い』を感じるものだった。