試合レポート

光星学院vs水城

2011.03.25

田村龍弘の引き出し

 昨秋の公式戦で東北大会準決勝の1試合3発を含む5本塁打を記録したことで、今大会トップクラスの注目を集めている光星学院田村龍弘が初戦を迎えた。
 しかも、公式戦打率・517の4番・金山洸昂と入れ替わる形で、公式戦初の4番に座る。

「1打席目はネクストにいた時から緊張がひどかったですね」
 新2年生の主砲はそう言って笑ったが、スイッチの切り替えは事のほか上手の部類に入るらしい。
「いつもは先輩たちにイジられてばっかりなんですけど、野球になるとその先輩たちが頼ってくれるんです。『内野はオマエが仕切っていけ』とも言われています」

 初回の打席は、二死二塁という先制機で巡ってきた。田村の3球目に水城先発の佐藤賢太が暴投し、チャンスは二死三塁と拡大した。
 大会前は上向かない打撃に悩む日々が続いたという。逆方向への強い打球が調子の良し悪しをもっとも端的に表すバロメーターだと田村。しかし、アジャストポイントを見失ったことで、どうしても引っ掛けての打球がレフト方向へしか飛んでいかない。
 そういう状況で迎えた甲子園初打席で、田村は慎重にボールを見ていく。初球の136キロ直球を見逃し、カウント2-1からの4球目に入ってきた甘めの直球も見逃し。ボールを見ながら、タイミングの取り方の感覚を取り戻していく田村。続く5球目のストレートにようやく手を出しこれをファウルとすると、直後の6球目を捉えて低い弾道の中前打を放った。仕留めたのは、甘く入ってきたスライダー。

「みんなが固くなる初戦の初回に、どうしても1点が欲しかった場面。繋ぐ意識でコンパクトに単打を狙った結果の一打です。内容にも結果にも満足しています」


 2打席目は5対0と大量リードを築いた2回に回ってきた。

ここでも田村はボールを見ていく。追い込まれるまで、バットは旋回しない。フルカウントからの6球目を捉えた左中間への左飛に倒れたが、感覚としては悪くない。

「内角に来ることは分かっていました。軸回転だけで打てたのですが、もう少し前でさばけていたら、少なくとも外野の間は破ったはずです」

 下半身の軸回転が早すぎたが故に大会直前のスランプに陥ってしまったわけだが、ここでの症状を自覚し、次打席にきっちり修正してくるあたりは、やはり並みの新2年生ではない。

 4回の3打席目も、やはり初球の直球を見逃した。

「初球が真っ直ぐだったので、次は変化球で来るはず」

と、2球目の曲がりの大きなスライダーを強振しファウルチップに。この試合で唯一「(大きいのを)狙いました」という一球を仕留められなかったのは残念だが、直球のボールを挟んだ後の4球目、ここで田村は外角低目の直球をインサイドアウトで巧みにさばき、右前にこの試合2本目の適時打を放っている。

「あれが理想の打撃です。4番といえば長打のイメージが強いと思いますが、自分はチャンスでタイムリーを打てる打者こそが4番打者だと思っています」


 対戦した水城のエース、佐藤賢は「非常にバットコントロールが上手かったです」と、その印象を語った。初回に田村に許した適時打は、直前に自分自身の暴投で不安な気持ちが生まれた中での勝負となったことを悔いている。2本目の適時打も「勝負にいった球ではありませんでしたが、甘く入ってしまいました」とうな垂れた。

「田村くんを含めた上位打線はレベルの高さが違いました。むしろ“脅威”というよりは“上手さ”を感じましたね」

 1試合3本塁打のイメージがあまりにも強すぎる為に、2本の適時打という結果にも物足りなさを感じる人もいたはずだ。ただ、現状で田村が発揮できるパフォーマンスは、充分に発揮できたのではないかと思う。力に技が加わった田村龍弘は、着実な進化を遂げていると見る。ファーストストライクを確実に捉える“前のめり”の心意気を見たいとは思うが、それはこれから先の楽しみとしてとっておきたい。

「やっぱり田村くんは特別なものを持っています。それは打席に立った時の“オーラ”です」(佐藤賢)――。

 

(文=加来慶祐)

(撮影=中谷明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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