高崎商vs前橋
試合前の整列、背番号1は金井君(高崎商)
「ほぼ理想に近い試合運び」の高崎商、満足の4強進出
穏やかな秋の一日。つい一週間前には猛暑の名残の30℃以上の日が続いていたとは思えない爽やかさだった。そんな、季節の移ろいを感じさせる中、確実に高校野球も移ろっている。
来春を意識する秋季大会も群馬県はベスト4を目指す戦いだ。
高崎商には夏から投げている192㎝の長身投手金井君がおり注目されている。立ち上がりは、やや力んだのか1死後3連打を浴びたものの、牽制で刺すなどして事なきを得た。
そして2回、高崎商は五番岡田君が中前打するとバントで進め、金井君自らの中前打で返して先制した。2~5回までを3人ずつで抑えていった金井君は自身の先制打で気分もよくし、完全に自分の投球リズムを掴んでいた。
投げ方は、夏よりも手の位置が少し下がりスリークォーター気味になっていた。
これは住吉信篤監督の、「コントロールを最重要視したい」という考えから、いろいろ模索しながらこの位置に落ち着いたという。ストレートはこの日も最速139㎞/hをマーク。伸びもあったしスライダーは切れ味を増していた。
金井君は完全にリズムに乗ったかと思われたが6回、失策と四球に併殺崩れがあって2死一三塁となったところで、前橋ではもっとも信頼できる四番野口君を迎える。金井君は少し意識したのか、高めに入ったところを野口君が右翼頭上をライナーで破る打球を放ったが、ワンバウンドしてスタンドインのエンタイトル二塁打。前橋としては、一塁走者が戻されて二三塁となったのが結果的にはアンラッキーになった。
同点とされた直後の高崎商は、1死二塁から八番今井君が左中間へ運ぶ2ランを放って再び突き放した。やや広めだった左中間を狙って運んでいった打球だったが、よく伸びてそのままスタンドに入った。高崎商としては、中盤で追いつかれてちょっと嫌な感じになりかかったところだっただけに、効果的な一発となった。
これで、金井君は7~9回再び自分の投球を取り戻した。
小林淳君(前橋)
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一旦は同点とされたものの、すぐに突き放すという展開に住吉監督も、「この時期としては、ほぼ理想的な試合と言ってもいいと思います。金井中心の守りを重視したチームというのが新チームをスタートした時の構想でしたが、試合を重ねながらいい形になっていっていると思います」と、2年ぶりの関東大会進出さらにはセンバツ出場も視野に入ってきた感じではないだろうか。
元々、守りを重視した野球を進めていく住吉監督である。この日も、遊撃手に取るべき併殺が取れないなどの甘いプレーが出るとスパッと交代させた。このあたりのこだわりも、守りの野球を徹底させていく姿勢の表れである。
中等学校野球時代から群馬県の野球を引っ張ってきた伝統校同士の対戦で、オールドファンにも嬉しい顔合わせだったが、その期待に応えたテンポのいい好試合だった。
結局、相手バッテリーに打たれた形になって破れた前橋だったが、小林淳君は丁寧な投球でコーナーを突きながら投げていた。金井君に比べると、体もよけいに小さく見えるし、スピードや球威も劣るが、自分の投球を工夫しているというのは、いかにも県下屈指の進学校・前橋の投手らしかった。
爽やかな秋の日差しに包まれながらの伝統校対決「前高(マエタカ)」と「高商(たかしょう)」の好試合。群馬県の高校野球ファンにとって、見ごたえのある好試合だったといえよう。
(文=手束 仁)