勢多農林vs市立前橋
小林(勢多農林)
勢多農林,快進撃のわけ
「奇跡ですね」
阿久沢毅監督がそう言うのには理由がある。
過去10年、秋に白星を挙げたのは2度だけ。最近2年間は1点も取っていない。春は桐生一に1対18。コールド負けが珍しくなかったチームが、3勝してベスト16に進出したからだ。事実、この秋にベンチ入りしているのも15人だけ。それでいて、女子マネージャーが7人もいる。それが勢多農林だ。
転機は今年4月。阿久沢監督が異動してきたこと。
「チーム内の雰囲気が変わりました。それまでは、監督の目を気にしながら、失敗したらどうしようと思いながらやっていたのが、思い切りやれるようになりました」
そう話すのはエースの小林。ベスト16進出の最大の立役者だ。
気持ちの変化とともに、小林が変わったのは投球スタイル。
これまでは外角中心だったが、内角に思い切って攻めるようになった。この試合でも、0対0で迎えた5回1死満塁のピンチで内角直球でショートゴロを打たせて併殺打に仕留めてみせた。
「今までなら外に投げていたところでした。思い切って投げられた」
6回には相手の四番・岩野を内角直球で詰まらせファーストゴロに打ち取るなど、右左関係なく攻めの姿勢を貫いた。
試合中、選手たちは「監督のためにも勝とうぜ」と声をかけ合っていた。
勝つことを知らなかった自分たちに、勝つ喜び、勝つ楽しさを教えてくれた監督。試合前には監督自ら打撃投手を務めてくれた。試合中、ベンチ内で一番声を出しているのも監督だ。
「自信がない子たちなんで、ちょっと何かあるとシュンとなっちゃう。背中を押してあげないとダメなんです」(阿久沢監督)
この場面では、どんな声をかければいいのか。監督がお手本となって示した姿は選手たちに伝わっていた。
小林(勢多農林)
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