メンタルを強化する
新チームがスタートして、練習試合を重ね「なかなかうまくいかない」と思っている選手は多いと思います。技術不足でのミスもあると思いますが、心の部分がミスを招いていることのほうが多いと思います。
「あの場面で弱気になるなんて・・」
「そこで逃げると打たれるのは当然だ・・」
指導者も選手に「何やっているのよ」と怒りますが、選手自身も「またやってしまった」と落ち込みます。心を強くしたいと誰でも考えるでしょうが、実際に何をしていけば心が強化され安定していくのでしょうか・・
ピンチのときに「いかに心を安定させるのか」
うまくいっているとき、マイナスに心が動くことはありません。うまくいっているときに氣をつけたほうがいいのは「油断」です。喜びすぎで心を揺らせば、落とし穴に氣づかずに怪我をします。うまくいっているときには油断だけに氣をつければいいのです。
うまくいっていないとき、ピンチのときに「いかに心を安定させるのか」が野球選手の大きな課題となります。
オフシーズンになると、厳しく辛い練習が待っています。夏の試合期とは違ってランニングの量が増えたり、身体を鍛えるトレーニングの割合は増えることでしょう。この厳しい練習が心を鍛える大チャンスとなります。
マイナス感情で嫌々やっても心は強化されていきません。辛い練習だからこそ、自分の意思を持って取り組めば同じことをしていても心が強化されていきます。
ある高校野球選手からの質問
ある高校野球選手から、質問されたことがあります。今年世界記録まで樹立した東北楽天の田中将大投手を高校時代指導していたことを知っている選手が、「エントモさん、マー君は高校時代どのようなトレーニングをしていましたか?」と聞いてきました。
「聞く理由は何?」と尋ねましたが彼は投手らしく、「田中投手みたいにメンタルが強くなりたい」という理由だったのです。負けない投手として、ピンチに打たれない投手の見本として、マー君のようになりたいと思っている投手は多いと思います。
「質問の目的は分かった。では、君が練習の中で一番嫌なものは何?頭に浮かんだことを紙に書いてみて」
彼は瞬時にたくさんの練習を紙に書き出しました。質問してきた彼はマイナス感情で練習をやっているみたいです(笑)
「練習が好きです!」と心の底から思っている選手は少なく、大抵はマイナス感情を持ちながらやっています。
彼が紙に書いて一番嫌な練習は「ポール間走」でした。
球場にあるファウルかホームランか区分けする黄色いポール、投手はトレーニングでよくやりますがポールとポールの間をフェンスに沿って全力疾走で走り、一旦休みます。インターバルを数分とってから、また全力疾走を繰り返すランニングメニュー。彼が一番マイナス感情になるというランニングメニューです。
いつもは「あーあ、今日もこの練習か」という感情で取り組んでいますが、意図的に声に出して次のように取り組めと彼に言いました。
「心を強くする時間だ!大好きで大好きでたまらない。えっ10本でいいのですか?いえいえ、15本やっていいですか!」
心を強化していくのは、言葉だけでコントロールしようとても限界があります。試合でのピンチで「強氣に攻めるんだ」と自己暗示してもごまかせません。チャンスで打者が初球から「思い切っていこう」と自分に言い聞かせてもなかなか身体が動いてくれません。
大事なのは、日々の練習で心を強化する行動を取らないと何も変わらないのです。
[page_break:自分に勝負を挑んでいく]自分に勝負を挑んでいく
厳しい練習で自分の意思を持って「今、心を強くしている」と思いながら、積極的にプラス感情で取り組むことが大事です。へとへとになったときに「いいね自分!ここからが本当の勝負だ!」と自分に勝負を挑んでいくのです。
幽体離脱して自分を空から第三者的に見ているような感覚も大切です。自分を【客観的】にみて、冷静に「鍛えている最中だ」と思いながらやるのがコツです。
「マー君の練習方法も聞きたいのですが・・」
「いや、試合で揺れない心を持てる投手になりたいのならば、マー君の練習をするより自分の弱さと向き合って克服していくのが一番。嫌々取り組んでいる感覚を、積極的な心でやっていけば必ず強化につながるよ」
心は自分のなかにあります。よって、磨くのは自分との対話であり、自分と向き合うことで磨かれていきます。ちょっとしたことでも、自分の心を強くしていくことはできるのです。
野球の練習は、同じような動きを毎日やります。例えばキャッチボールやペッパー、トスバッティングにノック・・、選手はきつい練習じゃなくても「同じ繰り返し」なので緩い感情で適当にやりがちです。
毎日のことなので無意識に惰性でやる選手がほとんどで、「このポイントを意識しよう」と考えながらやっている選手は残念ながら少ないのです。エントモイズムはすべてに【目安】があり、チーム指導のときには選手全員が集まって「これから●●を意識してやるぞ」と確認してから練習をします。
種目が変わったら、また同じように取り組む前に確認をします。
確認 → 実践
この確認行為を疎かにして、練習後に「反省」をします。たくさんの練習メニューを消化したあとに振り返って反省しても、次の日に同じような繰り返しをするだけです。短期間でうまくなるためには、必ず「やる前」の確認行為が重要なのです。確認時間は、1、2分。その時間を惜しんではいけません。
[page_break:「毎日書く」という行為が、自分の心を強くする]「毎日書く」という行為が、自分の心を強くする
毎日している退屈な練習が絶好のメンタル強化でもあります。繰り返しやっていることを、毎回意識して行うことが【心のスタミナ】をつけることになります。本番の大会を勝ち抜くためには、身体のスタミナと心のスタミナが必要です。心の強さは厳しい練習で培い、心のスタミナは繰り返し練習でつけていきます。
練習の中での「心の強化」もありますが、練習以外でも強くしていくことができます。エントモ考える野球ノートを使っている人もいると思いますが、ノートのなかに毎日チェックする項目があります。数分でチェックできるものですが、「毎日書く」という行為が、自分の心を強くしていきます。
エントモ考える野球ノート(市販していないので、下記より情報をゲットして下さい)
URL=http://www12.plala.or.jp/endou27/entomo_kp3.html
※ 意識する目安もすべてこのノートの中に書かれています
継続することは、心の強化につながっていきます。毎日のちょっとの積み重ねが、積もり重なっていけば大きな自信へと変わっていきます。
高校野球児には、「君たちは、自分の弁当箱を、自分で洗っているか?自分のユニホームを、自分で洗濯しているか」と聞きます。大抵は疲れて自宅に帰って食事してバタンキューだと思うので、親任せにしている選手ばかりです。
「自分の心を強くしたいのであれば、帰ってから身体的にも疲れているときこそ自分のことは自分でやるのが強化につながる。最後の夏で、自分が思い描いた活躍をしたい選手は、自分のことは人任せにしないで自分でやることだ!」
嫌なこと、苦手なことを進んでやる。今までのエントモコラムに書いている当たり前の実践、整理整頓なども誰もが苦手としていることだと思いますが、整理整頓をきっちりやることでも心を強化することができるのです。
特別な何か・・ではなく、足元にあるもので心を強化するのがエントモイズムです。何度も言いますが、技術と身体(体力)があってもそれを操作する心がコントロールできないと結果には結びつきません。
心を強化して、試合の中では「コントロール」できれば思い描いたような結果が出ることでしょう。今冬、厳しいこと、日常の当たり前の実践を大切にしてみましょう。
(文=遠藤友彦)