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嘉手納高校 眞玉橋元博監督が語る投手育成法 第2回

2013.04.07

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嘉手納高校 眞玉橋元博監督が語る投手育成法 第2回 | 高校野球ドットコム

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“アイツには負けない”ものを磨いていく

「ピッチャーのモチベーションを保つというのは、アイツにはあの武器があるけど、オレにはコレがある。何か“アイツには負けないもの”を磨いて、それを活かしそれで勝負する。同じ背中を追い掛けても負けているんだから、違う道が無いか探ってみようとピッチャー陣には伝えています 」(眞玉橋監督)※

嘉手納高校 眞玉橋元博監督が語る投手育成法 第2回 | 高校野球ドットコム

「僕らの仕事は結果を出してあげること」(眞玉橋監督)

 何でもかんでも探るのかというと全てがそうではない。例えばトルネードと呼ばれる投法。野茂英雄島袋洋奨(中央大)が有名だが、結果が出ている子をイジる必要は無いと眞玉橋監督は語るし、春夏連覇を果たした興南・我喜屋優監督も島袋洋奨を触らず、逆にそれを最大限に活かす練習法を与えて伸ばしてあげた。

 「僕らの仕事は結果を出してあげること。チャレンジすることを促すこと」(眞玉橋監督)オレでも勝負出来るんだ!と思うモチベーションが一所懸命な姿を作り出すという。

 「練習を怠けてても、能力でマウンドへ上がるヤツがいるじゃないですか。だけど能力だけがピッチャーじゃないんです。普段から一所懸命頑張ってるヤツがマウンドに立つと、周りはコイツを助けてやりたいという気持ちになるんです 」(眞玉橋監督)

 ナインの気持ちを惹きつける能力や信頼度の大きさもピッチャーの条件となる。それを監督が、ピッチャー陣に伝えることで、練習を怠けないようになるし、皆からの信頼を得ようとする選手が出てくるのだ。そうなると競争心も生まれ、チーム内のピッチャーが一気に、横一線になるという。
 背が低いから、球が遅いからと、中学までガンガン打たれて控えに回っていたピッチャーが、高校野球のステージで急に打たれなくなるから面白いと眞玉橋監督は笑った。

※2013年4月から人事異動で美来工科高校へ赴任

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ピッチャーのリリースポイントは重心によって違う

 「低重心投法のピッチャーと高重心投法のピッチャーではリリースポイントが違うんです 」(眞玉橋監督)

 低重心投法のピッチャーといえば、亜細亜大学で35勝利22完封420奪三振を記録してソフトバンクへ入団した東浜巨投手をイメージしていただければいいだろうか。
 地面スレスレの低空飛行を維持しつつ、上下にぶれずにミットへ投げ込む。この投げ方をする選手が多いことから、「日本人的投げ方」と眞玉橋監督は分かりやすく噛み砕いて説明してくれた。
 一方、高重心投法のピッチャーは、広島東洋カープの永川勝浩投手を思い浮かべて頂いたら分かりやすいだろうか。軸足を地面に擦ることなく、腰を高い位置をキープしながら投げ下ろしてくる。この投げ方をする大リーガーが多いことから、「外国人的投げ方 」と教えてくれた。

 「低重心投法は歩幅を多く取ります。マウンドからの18.44mを、少しでも縮めるためには、歩幅を多く取った方が良いという考えをしている方がとても多いですよね」
 プロでは7足というピッチャーは当たり前のようにいる。しかし両足を広げてみれば分かるが、広げれば広げるほど腰がロックされる。横に回りにくいのだ。そこで(右投げの場合)軸足の膝を曲げてはじめて腰がやっと入る。だから股関節の柔軟性が必要なのだと言われるのだ。そしてこの低重心投法で一番力が入るのが体の真横なのだと眞玉橋監督は語る。これに対し、
 「高重心投法にする、すなわちショートステップにすると先ほどと違って腰が回りやすくなります。キレが出てくるのです。18.44mを少しでも縮めるために、ステップ幅を多く取りなさいというけど、高重心投法では歩幅が狭くなり腰の可動域が広くなる=腰が回るから肩も回り、リリースポイントを低重心投法よりも前に持ってこられるのです」(眞玉橋監督)

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嘉手納高校 眞玉橋元博監督が語る投手育成法 第2回 | 高校野球ドットコム
低重心投法では力が一番加わるこの部分でリリースする

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 百聞は一見に如かず。眞玉橋監督ご自身にモデルになってもらったのでそちらをご覧頂いた方が言葉で説明するより分かりやすいだろう。
 ステップ幅が少ないと、ミットへの距離を縮めることが出来ないのではなくて、逆にリリースポイントが前に出てくるので、結果打者側に近づいて放ることが出来るのだ。

 「リリースポイントが50cm違えば、変化球ではだいぶ変わってきます。曲がりが早いと打者に見切られやすくなりますが、50cm分遅くすることが出来るので、緩いボールの変化球でも打者が手こずることになるのです 」(眞玉橋監督)

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▲高重心投法ではリリースポイントが前にくる

 リリースポイントを前に置くことで操作がし易く、SFF(スプリット・フィンガー・ファストボール)やサークルチェンジ、ツーシームのカット、シンカーなどが有効になってくるとのこと。大リーガーがSFFやツーシームのカットを多投していると言えばこれまたイメージし易いだろうか。

 「ステップ幅を多く取る低重心投法のピッチャーに、サークルチェンジを投げなさいということ自体無理が生じるのです。またショートステップから体の前でリリースするピッチャーには抜く球は投げられず、すぐに落ちてしまう。逆に真上でリリースしやすい低重心投法のピッチャーには、フォークや宜野座カーブなどは合うんですよ」(眞玉橋監督)

 高重心と低重心のそれぞれの特徴と、それらの物理を知り尽くした眞玉橋監督ならではの見解だ。例えばA君とB君が同じ握りからのカーブを放ったとしても、ステップ幅が違えば股関節の柔らかさも違うので全く同じようなカーブにはならない。
 「雑誌には良く、変化球の握りの写真が載っていますが、やみくもに握りだけマネをしても上手くいかない。自分の身長はこれくらいで、これだけの歩幅で、ここでリリースしてこう曲がっていると付け加えるならば、マネしようとすれば出来ないことは無いのです」(眞玉橋監督)

 但し例外的なピッチャーもいる。明治神宮大会でノーヒットノーランを達成した富士大学の多和田真三郎(独占インタビュー:第125回 富士大学 多和田真三郎 投手 (中部商出身))や、沖縄尚学比嘉健一朗らは典型的な低重心投法だが、股関節と肩肘など上半身が人並み外れて柔らかいので、リリースポイントを前に持ってくることが出来る。そうなると、前述した多くの変化球を操ることが出来るし、球持ちが長くストレートにもキレが出てくるので打者は詰まってしまう場合が多い。

 「島袋洋奨興南-中央大)が春夏連覇を果たしてから、多くの子供たちがトルネードをマネしています。でもトルネードもしかりなんですね。野茂英雄や島袋洋奨は、リリースポイントが一番良い所で離す術を持っている。重要なのはタイミングなんです」(眞玉橋監督)

 「多くの人はトルネードを見て、パワーをギリギリまでためて、一瞬で爆発させるからボールが行くんだよね、としか見ないが、そうじゃないんだよ」と眞玉橋監督は語る。リリースするまでの準備期間が長ければ長いほど、ピッチャーは余計な力が入りやすくなる。それによりリリースポイントがぶれてしまい、コントロールをつけにくくなるのだ。マネだけではモノに出来ない代表的なものがトルネードという訳だ。

(文=當山雅道)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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