Interview

フォームを細分化する。154キロ右腕・木澤尚文(慶応大)の独自の投球理論【後編】

2020.10.17

 今年の大学生の右投手としてトップクラスの評価を受けているのが木澤尚文だろう。最速154キロの速球、140キロ前半のカットボール、スプリットを武器、10月16日現在、57イニングを投げ、76奪三振と三振が奪えるパワーピッチャーとして注目を浴びている。

 そんな木澤はいかにして成長できたのか。それは慶應7年間で培った思考力の高さ。1つ1つの踏み込み具合は他の選手とは比べものならないぐらいレベルが高い選手だった。苦しみを乗り越え、大学球界屈指の豪腕へ成長を遂げた木澤の歩みを振り返る

 後編では木澤投手が活躍するために取り組んできたことなどを中心に見ていきたい。

フォームを細分化する。154キロ右腕・木澤尚文(慶応大)の独自の投球理論【後編】 | 高校野球ドットコム前編はこちらから!
思考力も一流な154キロ右腕・木澤尚文(慶応大)。苦しい時間が多かった高校3年間が現在の糧に【前編】

球児必見!木澤が語るフォームチェックポイント法

フォームを細分化する。154キロ右腕・木澤尚文(慶応大)の独自の投球理論【後編】 | 高校野球ドットコム
木澤尚文

 まず木澤が考えたのはフォームの考えの細分化だ。高校時代から体の使い方を学んでいたが、「今、振り返れば、かなり感覚に頼っていたと想います。思い切り投げたり、体重移動の際の右足、左足の使い方もそれほど深堀りをしていなかったと想います」

 そして大学に入って1つ1つの動かし方を細分化した。
 「先程も話したように、体重移動の際、軸足の右足はどの部分を動かしたほうがいいのか、踏み出す左足はどの部分を使って受け止めたほうが良いのかを考えるようになりました」

 そのために映像を使って分析する。
 「自分のイメージ、映像で見た時のイメージのギャップは少なからずあるので、自分はこういうふうに動かしたつもりで実際はこうだったというのあるので、そのギャップは埋めていかないといけません」

 さらに慶應大はラプソードを使って、球速、球質を分析するが、木澤はそこまで数値化、映像を使って自分を分析するのはどんな狙いがあるのか。
 「数値化することで、自分の感覚と実際の数値や動きがどれだけ一致しているかが分かることで、感覚で投球をしているところから状態を把握しやすくするので、波が小さくなりやすいですし、投球のレベルも高まっていくので、客観的に見るためとして数値、映像はとても大事だと思います」

 また慶應大で数多くの速球投手を育てた林卓史助監督からも多くのアドバイスをもらい、投球のレベルを高めることができた。

 木澤が話すように映像を使って分析することは高校生でも増えている。木澤の分析の仕方はさらに踏み込んだものだった。それは真後ろ、三塁側、真正面から撮影をしてもらうことだ。いろんなアングルから撮影することで、見えてくるものがだいぶ違うという。

 「例えば、体重移動のフェーズで、一塁方向へ背中が倒れているとします。それは三塁側方向からでは見づらくて、二塁方向から見て、背中が倒れているなというのが分かります。見る角度によって見つけられない欠点があると思うので、そこで自分自身の感覚と動きをすり合わせています」

 それぞれの方向から撮影する時のチェックポイントを語っていただいた。まず本塁方向から撮影するポイント。
 「速く強いボールを投げるには、捻転差を出して、ギリギリまで上半身が開かず、下半身を先に開いて投げることが大事です。早く胸が解けていないとか、体重移動のフェーズで、体を反らさず、頭がラインから外れていないもチェックします」

 また投球の際、右投手から見て顔と胸が見えるのは、三塁側(左投手は一塁側)だが、その時のチェックポイントも違うという。
 「自分は頭が本塁方向に突っ込むやすいので、突っ込むことで重心がずれて、腕を振るスペースがなくなって、ボールが抜けたり、引っ掛かったりすることが多いので、頭の位置が右膝に残ったまま、体重移動ができているか。それがよく見えるのは三塁側です」

 また、ストレートを投げるポイントについてボールを潰して投げることを意識している。投球練習では捕手を少し下げて、突き刺すイメージで投げることを意識している。

[page_break:最終学年は規定投球回に達する投球を見せたい]

最終学年は規定投球回に達する投球を見せたい

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木澤尚文

 ピッチングの分析だけではなく、さらにウエイトトレーニングなども重ねて、2年春には150キロ台に達した。ただ150キロを投げられたと言っても圧倒できるほど今の東京六大学は甘くない。リーグ戦で登板して、新たな課題が見つかったという。

 「実戦というのは全然違くて、また新たな課題が見つかったというか。こうして僕がフォームについて考えているのは実戦で打者相手に投げる事に集中するためにあります。実戦でフォームがこう動いているということを意識する余裕はないですし、それでは打者に向き合って投げることができないので、最低限は意識しますが、相手を抑えるためにどう抑えるのか意識しています」

 またストレートだけではなく、高速変化球も魅力な木澤。武器にしているのはカットボール、スプリットの2球種だが、調子が良いときはこの2球種の判別がしにくいほど直前で曲がるという。

 「だから判別がしにくいと言われるのが嬉しくて、自分はこの2球種については曲げようとか、落とそうとかということは考えていないんですよね。ストレートに近い握りで、少し曲げるイメージ。いわゆるピッチトンネルではないですけど、ストレートに近い球速差でいろいろ変化をつけることを意識しています」

 こうしてピッチングについて深く突き詰めていた木澤。今シーズンの意気込みとしてチームの優勝。それにはまず規定投球回に達しないと語っていた。全5試合の春のリーグ戦では2試合に登板し2勝0敗、11イニングを投げて20奪三振、防御率2.45と好成績を残し、秋のリーグ戦でも2勝を挙げている。

 持っている潜在能力の高さは別格。そして思考力の高さも一流。こういうところは高校・大学を通じて慶應7年間で培ったものだっただろう。感覚でやっていたと振り返る高校3年間も苦しみながら、今の木澤の基礎を作り上げただけに無駄ではなかった。

 現在、レベルが高まっているプロ野球において生き残るには思考力の高さが必須条件となっているだけに、木澤のようにピッチング1つ1つについて踏み込んで追求ができて取り組むことができる選手は必ずや生き残るはずだ。

取材=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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