思考力、打撃力、守備力ともに高次元な郡司裕也(慶應大・中日ドラ4位)は中日の正捕手を狙えるか?
19年ぶり4度目の優勝を決めた慶應義塾大。優勝の原動力となったのは、主将で正捕手となった郡司 裕也だ。
中日から4位指名を受け、卒業後はプロ野球選手として歩む郡司の最大の武器は何か。活躍を振り返りながら郡司の魅力を伝えていく。
読みの鋭さと高い打撃技術から生まれる高度なパフォーマンス
郡司裕也
神宮大会3試合で12打数4安打7打点。今大会の活躍のインパクト度、実力はドラフト上位級だった。
打者としては東京六大学では91試合に出場し、11本塁打、56打点、94安打、打率.297。この秋は三冠王を達成した。そして、三度のリーグ優勝を経験。さらには日米大学野球では2本塁打を記録している。それも右中間へ本塁打を放っている。
それをもたらしているのは。高い打撃技術と鋭い読みだ。まず郡司のとらえるポイントは捕手寄りで、呼び込みが上手く、外角、内角のどちらにも捌けて長打を打てる。それができるのは鋭い読みにある。決勝戦の本塁打は読み勝ちだった。
郡司はこう語る。
「僕に対しての配球を見て、外角が多く、インコースに来るかなと思ったんです。それがきたら捉えようと。外角中心の攻めになっていて、勝負球は内角かなと思っていました」
その内角ストレートをドンピシャでとらえた打球は逆風の中でもスタンドイン。
「感触は完ぺきでした。ただ風があったのでフライになるかもしれないと思って全力で走りました」
最後の舞台で大仕事をやってのけた。さらに郡司の読みは冴えわたる。8回表のチャンスの場面。関西大もこれまで力投のエース・森翔平(4年・鳥取商)から140キロを超える速球とスライダーを武器にする好右腕・肥後皓介(4年・広島広陵)に代わった。
「まず初対戦の投手でしたので、どんな投手なのかと思って、ボールを見ていくと、スライダーの切れが良い投手でした。追い込まれてからスライダーが続くだろうと思っていまして。そのスライダーを逆方向に打ち返すことをイメージしていました」
郡司はそのスライダーに対してヘッドを残しながら、右前安打。貴重な2点適時打となった。この読みの鋭さこそが郡司の最大のウリだ。
「僕の調子が良いときは読みがうまく当たっているときで、今シーズンはそれが続いていると思います」
読みが当たっても、打てるものではない。決勝戦の本塁打、2点適時打も高度な打撃技術がなければ実現できないものだ。
大久保監督から教えを受けた「大局観」をもってリードするということ
郡司裕也
こうした観察力は今シーズン限りで退任する大久保秀昭監督からの指導によって培われたものだ。
「大久保監督には1年生の時から目をかけていただき、この4年間で大きく成長することができました。本当に慶應にきて良かったと思っています」
その大久保監督から常々いわれていたことだ。「大局観」をもってリードすることだ。
「目先の1点にこだわらないで、広い視野でリードしていただきたいといわれ続けてきたことですね」
全体を俯瞰して最善の判断を下せる捕手になることを期待されていたのだ。また、慶應大投手陣は速球派右腕、技巧派左腕と多種多様。その投手の個性を生かしたリードを求められた。
郡司が正捕手になってからリーグ優勝3回、そしてついに全国制覇を成し遂げた。勝ちを導くリード、投手の持ち味を引き出す高いフレーミング術、課題と言われていたスローイングも1.90秒~2.00秒のタイムで二塁ベースに待ち受ける野手のグラブにコントロール良く投げられる精度の高さは素晴らしく、大学球界を代表する捕手へ成長した。
最後になって悲願の全国制覇。慶應大の4年間、リーグ優勝してもなかなか勝ちきれず、また優勝が迫ってもあと一歩で取り逃すなど悔しい戦いが続いた。日本一への思いが誰よりも強かったのは、大久保監督だ。
「夏から大久保監督から日本一を狙うぞと再三言いづけていて、本気で日本一を狙ってたんだなと感じました。でも本当に自信がなかったです。過去に何度かリーグ優勝をさせていただいておりますが、ギリギリの中での優勝が多く、秋もそういう感じになるかなと思いました。高校でも果たせなかった日本一になれて嬉しいですし、胴上げも経験して、4年間頑張ってきてよかったと思います」
これからはプロ野球で活躍するための準備期間に入る。目標は開幕一軍だ。
「まだ実力でいうと全然なので、キャンプまでしっかりと練習をして実力をつけていきたいです」と意気込む。そしてプロでは慶應の4年間で培った思考力で勝負する。
「捕手として出るのならば、頭を使って投手の良さを引き出して試合を作るのが、一番のセールスポイントだと思っています。まず投手陣を知るところから始まると思っています」
活躍しても浮かれる様子はない。自分を客観視し、アピールポイントも明確な郡司はBクラスに沈む中日にとっては大きな戦力になることは間違いない。
(取材=河嶋 宗一)