試合レポート

帝京vs関東一

2020.08.08

帝京9年ぶりの夏制覇!激戦に終止符を打つ新垣のサヨナラ二塁打

帝京vs関東一 | 高校野球ドットコム
勝った瞬間ベンチを飛び出した帝京ナイン

 たとえ甲子園がかかっていなくても、この両校の対戦が、平凡な試合になるわけがない。長年のライバルである東東京の横綱対決は、レベルの高い、息詰まる熱戦になった。

 関東一は右腕の領家佑馬帝京は左腕の田代涼太が先発のマウンドに立った。両校とも継投を予定しており、先発投手がどこまで持ちこたえることができるかが、序盤の焦点になる。

 帝京の田代は1回、2回を三者凡退で抑える順調な立ち上がり。一方領家は、1回、2回と走者を出しながらも得点を許さなかったが、3回裏につかまる。

 この回あっさり二死になったものの、2番・尾瀬雄大が四球で歩くと、3番・小松涼馬が左前安打で続き、4番で主将の加田拓哉がレフト線近くに飛ぶ二塁打で尾瀬が生還し、帝京が1点を先制する。

 しかし関東一は、すぐに追いつく。4回表二死から4番・町田雄大が内野安打で出塁すると、すかさず二盗。捕手からの走塁がそれ、町田は三塁に進む。続く出利葉翔の三ゴロで、帝京の三塁手・澤石淳平の失策があり、1対1の同点になった。

 関東一は5回表には、左前安打の7番・岡澤敦也が、1番・重政拓夢の右中間を破る二塁打で還り、逆転した。田代は、6回途中で降板。2点を失ったものの、帝京の前田三夫監督は「まあまあ。頑張った」と語る。厳しい評価の多かった前田監督としては高評価で、試合を作ったのは間違いない。

 しかしながら、5回裏からマウンドに上がった関東一今村拓哉が完璧な投球。しかも、内外野の動きが良く、とりわけ内野手の送球が正確なので、見ていて危なげがない。

 帝京の2番手の柳沼勇輝も好投しており、中盤以降は息詰まる投手戦になり、2対1、関東一が1点をリードして、9回裏帝京の攻撃を迎える。


 一死後、4番・加田が粘って四球で出塁すると、帝京の前田監督は一気に勝負に出る。5番・新垣の初球にエンドランを仕掛け、左前安打となって、一死一、三塁。すると続く武藤闘夢の初球にスクイズを敢行し、同点に追いついた。「武藤は打ちたそう顔をしていましたが、スクイズのサインは2回出しました」と前田監督は語る。関東一の米澤貴光監督の頭の中にも、スクイズを仕掛けてくることは、予想していた。ただ「外しきれませんでした」と語る。


 帝京は9回から武者倫太郎が登板しており、関東一は延長10回から市川祐をマウンドに送る。ともに140キロを超える速球を投げる両投手に、勝敗は託された。

 試合は11回裏、大きなヤマを迎える。この回先頭の2番・尾瀬は投手を強襲する当たり。打球は市川のグラブをかすめて弱い二ゴロに。関東一の二塁手・岡澤が素早く捕球して一塁に送球。しかし尾瀬が一瞬早く無死一塁となる。内野安打にはなったものの、レベルの高さが分かる、守備動作だった。続く3番・小松はバントが決まらず2ストライクとなったが、ここは迷わずスリーバントをさせて、走者を進めた。「フライを狙って、高めにきていましたが、よく決めてくれました」と前田監督は語る。小松の力を信じての、スリーバントであった。すると関東一は続く加田を申告敬遠で歩かせる。「新垣が絶対に決めてくれると思っていました」と加田は語る。

 5番・新垣熙博の打球が、レフトの頭を超えた時、息詰まる熱戦は終わった。決勝打を打った新垣は、「嬉しいの一言です。打った瞬間、抜けると思いました」と語る。

 選手権大会ではないものの、帝京が9年ぶりに東東京大会を制した。小松や、負傷により欠場する時期が長かった澤石ら、1年生の夏から試合に出ている選手も多く、名門復活を託された世代であった。そして加田というチームを鼓舞できる主将を擁して、東東京を制した。

 かつてのように、本塁打で豪快に点を取る野球ではない。それでも、1点を取るための執念、凄みを感じさせる帝京の優勝であった。

 試合後、勝った帝京も負けた関東一も涙した、熱い戦いであった。敗れた関東一の米澤監督は、「(選手たちが)目標が消えて、不安定になった時期もありましたが、意地もありました」と語る。関東一は秋に続けて帝京に敗れたが、コロナ禍で練習ができなかった時期が長かったにもかかわらず、成長した姿はみせた。

 この大会は選手権大会とは別枠の独自大会であるが、2020年の夏の好勝負は、これからも語り継がれていくに違いない。あとは東東京大会優勝の帝京と、西東京大会優勝の東海大菅生との東西決戦を残すのみ。両校の選手とも、東京一になることを目標に掲げていただけに、東京の夏の戦いを締めくくる、レベルの高い戦いになるに違いない。

(記事=大島裕史

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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