試合レポート

静岡商vs御殿場西

2012.07.16

勝利を手繰り寄せた背番号「9」の一投一打!

春静岡3位の静岡商と県大会初戦敗退し、この夏にかける御殿場西と対決は延長14回に及ぶ熱闘となった。
1回に先制した静岡商はさらに2回表には一死一、三塁から9番野極琢斗(3年)の二ゴロで1点を追加。二死一、三塁となって、一塁走者の有賀純(3年)がスタートを遅らした。わざと盗塁のタイミングを遅らして、挟殺の間に三塁走者がスタートする戦法を取った。捕手の平山 修(3年)の送球が高めに逸れたのもあり、三塁走者は迷いなくスタート。内野は本塁を投げる事を諦め、一塁走者をタッチ。タッチするまでに三塁走者は先に生還し、3対0とした。

 
さらに4回表にも二死二塁から9番野極のセンターオーバーのツーベースで1点を追加。さらに5回表には4番相原将輝(3年)が1年生左腕・佐藤圭生から高めに入った速球を逃さずレフトスタンドへ飛び込むホームラン。5対0とする。

静岡商のエース 中本聖エリヤ(3年)は172センチと投手としては小柄だが、体重移動がしっかりしたフォームから投じる130キロ前後のストレート、スライダー、カーブを内外角に投げ分ける投球で、5回まで無失点。試合はこのままいくかと思われた。

しかし6回裏、異変が生じる。中本は6回表の走塁で痛めたかは分からないが、治療をしてからマウンドにあがった。負傷中のエースをなんとか援護したい守備陣であったが、1番石井のショートゴロが暴投。さらにカバーにも遅れ、ゆうゆうと二塁への進塁を許す。さらに2番の犠打。これをサードが暴投。その間に二塁走者が生還し、御殿場西が1点を還す。3番平山がこの日 2安打目となる左中間を破る三塁打で1点を返し、4番岩間勇平(2年)を迎え、1ボール1ストライクとなったところで、中本は限界を訴えた。ここで投手を交代し、白瀧康二(2年)がマウンドに上がる。岩間は白瀧の高めに入った変化球を振り抜き、レフトへタイムリーとなり5対3と追い上げる。さらに追い上げていきたいところだが、勝間田が痛恨の併殺。この回は3点止まり。


だが御殿場西はまだ諦めていなかった。8回裏、二死2、3塁と追い上げて6番勝間田陽祥(3年)のレフト前タイムリー適時打で同点に追いつく。同点打に沸き立つ御殿場西スタンド。夏勝ち進みたい御殿場西にとっては簡単に試合を終わらせるつもりはない。両チーム、決定打を欠き、試合は延長戦を迎える。

10回表、二死から白瀧に代わって今本茂雄(3年)が代打に送られた。185センチ81キロの大型左腕である今本。打力を買われての代打なのだろうか。その今本、初球を打ち返し、痛烈なライトへのヒット。
これには驚かされた。打力の高さは勿論だが、延長の場面から代打として出場し、初球から積極的に振れる姿勢に驚かされた。大型左腕である今本がここまで起用されないのは実戦で力を発揮出来ないメンタルの弱さからだと想定していたが、この代打の一打席を見て、この男、なかなか度胸があって、冷静に試合の中に入る事が出来ているプレイヤーだと感じた。

そして10回裏、今本がマウンドに上がる。
想像以上の大型左腕であった。ノーワインドアップから始動し、軸足を一本足で立たせて、少しずつ重心を沈めていきながら、角度良く振り下ろす直球は素晴らしい。135キロ~140キロを計時する左腕と比較しても、それを同格のボールを投げ込んでおり、静岡商投手陣の中で最も勢いを感じさせたストレートであった。
初球ストライクを獲れたことでほっとしたのか。2球目には右打者の内角へ懐をつくクロスファイヤーも決まり、2ストライク。さらに気を良くした今本は最初の打者を空振り三振。続く打者も三振に打ち取った。ここまで3安打の3番平山もレフトファウルフライに打ち取り、サヨナラ負けを阻止。
打ち崩せる気配を感じさせない今本の投球には静岡商ナインを引き締めるには十分であった。今本は威力ある直球に加え、スライダー、カーブ、フォーク。時折、投げるフォークは手元で沈む厄介な球筋。多投はせず、巧打者・平山に対しては追い込むまではフォークを使わず、ストレート、スライダーで有利なカウントに持ち込んで、最後はフォークで空振り三振に取った配球は見事であった。

なんとか勝ち越したいが、6回表から登板する石井を捕えきれず。13回表に今本が左中間を破る三塁打で、一死三塁のチャンスを作るが、後続が凡退し、無得点。両チームから再試合の文字が過っていた。


だが14回表、静岡商は先頭打者が四球で出塁。9番水谷がきっちりと送り、一死二塁。ここで有賀に回る。有賀には無理に勝負せず、四球。さらに2番牧田も四球。一死満塁。満塁策を取り、ここで3番捕手の吉永祐太郎が打席に入った。ここまで目立った活躍がなかった吉永だが、それまでの打席と比べて集中して打席に入っているのが見てとれた。吉永は直球を捕え、レフトへタイムリー。二者生還し、7対5と勝ち越しに成功。主軸打者としての役目を果たした。二死一、三塁となって、再び今本が2ストライクからストレートを捕え、レフトへタイムリー。今本は3打数3安打。これで8対5。投球だけではなく、打撃面の貢献も大きかった。

そして14回裏、今本は一死一塁となったところで、マウンドを降板。4回三分の1を投げて6奪三振の快投であった。マウンドには1年生の国松歩がマウンドにあがる。軸足にしっかりと体重を乗せて、体の近くで腕を振る事が出来ており、しっかりと胸を張って腕を振り下ろすので、手元でも失速しないストレートを投げている。同じ腕の振りで投げるカーブのキレも良く、火消しとしては十分だった。1年生離れしたマウンド捌きで、後続の打者を抑え、静岡商が延長14回の激戦を制し、3回戦へ駒を進めた。

表攻めの静岡商が粘り強く戦うことが出来ていたのは今本の好投に尽きる。
一点取られたらサヨナラという場面で、気負いすることなく、自分のピッチングに専念し、持ち味を発揮出来る。さらに打者としても打てる球を確実に打ち返せる集中力の高さ。
御殿場西打線を寄せ付けない雰囲気が静岡商ナインを元気づけた。背番号「9」を付ける今本の一投一打が静岡商ナインを奮い立たせ、粘り強い戦いを見せたと言える。緊迫した場面でも気負いせず力を発揮出来る一人の選手の活躍がチームに大きな活力を与えるのだ。

難しい初戦で延長14回を戦ったことで、大きく得たのは控え投手の経験値。エース中本が途中降板したが、結果的に緊迫した場面で3投手を登板させることが出来たのが大きな収穫であった。

(文=河島宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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