宿敵・韓国もメジャーリーガー3人が参戦。日本キラーの存在は?WBCの注目選手
メジャーリーガー3人の内野陣
姜白虎
1月4日、「2023ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場する韓国代表メンバーが発表された。その中で最大のサプライスは、カージナルスのトミー・エドマン内野手だ。母親が韓国系のため、韓国代表の資格があるが、WBCで韓国籍でない選手が選ばれるのは初めて。1950年代から70年代の初めに在日韓国人が選ばれたことがあるが、学生時代も含めて韓国での活動経験がない選手が選ばれるのは、82年にプロ野球が誕生してからは初めてのことだ。
こうした異例の選抜は、韓国球界の危機意識の表れだ。2008年の北京五輪で金メダル、第1回WBCで4強、第2回大会で準優勝と黄金時代を築いた韓国野球であるが、第3回、第4回大会は第1ラウンドで敗退。一昨年の東京五輪ではメダルなしと近年は不振が続いている。それだけに今大会は、4強というのが当面の目標になっている。
一昨年、メジャーで二塁手のゴールドグラブ賞を獲得したエドマンの加入により、金河成(キム・ハソン/パドレス)とのメジャーリーグの二遊間コンビが誕生する。それに負傷により交代の可能性もあるが、一塁手にはパイレーツの崔志萬(チェ・ジマン)が入り、内野手の3人をメジャーの選手が占めることになる。残る三塁手は、通算本塁打429本の崔廷(チェ・ジョン/SSG)が有力だ。
内野手でもう1人注目したいのは、呉智煥(オ・ジファン/LG)だ。高校時代は投手としても評価が高かった強肩の遊撃手。しかし5年前のジャカルタ・アジア大会では遊撃手には他に有力選手がいたため、兵役回避のための疑惑の人選として、バッシングを浴びた(アジア大会で優勝すれば、兵役は免除される)。今では押しも押されもせぬ韓国球界No.1遊撃手であり、本人も汚名返上に期すところが大きいはずだ。
汚名返上といえば、一作年の東京五輪の試合中にボーとガムを噛んでいる姿がテレビに映り批判を浴びた一塁手の姜白虎(カン・ベッコ/KT)も同じだ。姜も高校時代は投手としても注目された。しかし22年のシーズンは打撃不振で出場は微妙だった。それでも選ばれたのは、次世代の大砲としての期待の表れだろう。現在の大砲は昨年の韓国プロ野球の本塁打王である朴炳鎬(パク・ピョンホ/KT)であり、やはり代表入りしている。
捕手には、打てる捕手として知られる梁義智(ヤン・ウィジ/斗山)が中心となる。
親子2代でWBCのヒーローを目指す李政厚
李政厚
外野手では何と言っても、昨年の韓国プロ野球のMVP選手である24歳の李政厚(イ・ジョンフ/キーウム)が注目だ。昨年は韓国プロ野球で1位になったものだけを挙げても、打率.349、打点113、最多安打193本、出塁率.421、長打率.575、三塁打10本、塁打数318、OPS(出塁率+長打率).996と活躍は多岐にわたる。
李政厚の父親は中日でもプレーした李鍾範(イ・ジョンボム)だ。李鍾範は93年にヘテに入団。すぐに遊撃手のレギュラーで活躍し、94年に打率.393、盗塁84でシーズンMVPを受賞している。親子でMVPを受賞するのは、韓国プロ野球史上初の快挙だ。李鍾範は、猛スピードでグラウンドを駆ける姿から「風の子」と呼ばれ、その子である李政厚は「風の孫」と呼ばれている。
李鍾範は日本では思うような結果を残せず、2001年にヘテを受け継いだKIAに復帰した。06年の第1回WBCでは、韓国代表の主将として韓国躍進の立役者になった。もし息子の李政厚もWBCで活躍したら、これもWBC初の出来事になるのではないか。
李鍾範はメジャーリーグ進出を夢見ながら果たすことができなかった。息子の李政厚は今年のシーズン終了後、ポスティングでメジャーに進出することを宣言している。今回のWBCは、そのための格好のアピールの場になる。
また外野手として選ばれている羅成範(ナ・ソンボム/KIA)は、今は韓国球界を代表する強打者であるが、大学時代はメジャーからも注目された投手で、2010年に日本で開催された世界大学野球選手権には、投手として出場している。
投手陣の柱は北京五輪の日本キラー金廣鉉
蘇珩準
投手陣では、ブルージェイズの柳賢振(リュ・ヒョンジン)は昨年肘の手術を受けており、今大会は出場できない。今日の韓国プロ野球では、昨年のシーズンで防御率(2.11)、奪三振(224)のタイトルを獲得した23歳の安佑鎮(アン・ウジン/キーウム)がNo.1であるが、高校時代の暴力事件が問題になっており、代表に選ばれなかった。
近年韓国では、野球に限らず様々なスポーツで学生時代の暴力事件が問題になり、代表などから外されるケースが目立っている。詳細はそれぞれ異なっても、大枠でみれば、韓国独特の問題が根底にある。
韓国の高校の運動部は、プロになることを前提にしており、すぐにプロになれなくても、大学にスポーツ特待生で入ることが求められる。そして監督のギャラは、多くの学校では親が支払っている。
大会で好成績を挙げれば部員の進学などで有利であり、監督も収入が増え、地位が安定する。すると、チームの勝利に貢献している中心選手に対しては、どうしても甘くなる。仮に中心選手による暴力事件などがあっても、被害者は泣き寝入りするしかなかった。けれども今は、誰もが情報を発信できる時代だ。そのため、過去の暴力行為が相次いで暴露されている。
それでなくても層が薄い韓国の投手陣において、安佑鎮が選ばれないのは痛手であるが、世論は無視できない。となると韓国の投手陣の柱になりそうなのが、北京五輪では日本キラーとして活躍した左腕の金廣鉉(キム・グァンヒョン/SSG)だ。金は2年間カージナルスでプレーした後、昨年SKからSSGとチーム名が変わった古巣に復帰し、チームの優勝に貢献している。金廣鉉と同じ1988年生まれの左腕・KIAの梁玹種(ヤン・ヒョンジョン)も長年、韓国の投手陣をリードしてきた。
しかし、金廣鉉、梁玹種に続く投手が出てこなかったことが、その後の韓国野球の低迷につながった。それでも近年、2002年生まれの左腕・李義理(イ・ウィリ/KIA)や2001年生まれの蘇珩準(ソ・ヒョンジュン/KT)ら若手が台頭し、今回も代表に選ばれた。李は一昨年の東京五輪でも代表入りし、蘇は19年のU18ワールドカップで日本を苦しめた。
韓国としては、初戦となる3月9日のオーストラリア戦が重要な一戦になる。この試合に勝って、2位以上を確実にしたいところだ。ただ、世間の関心は2戦目の日本戦だ。プレミア12での対戦はあるものの、WBCでの日韓戦は第2回大会の決勝戦以来となる。選手層の薄い韓国としてはここで無理をするより、準々決勝に備えたいところだが、世論を考えると、そうもいかないだろう。いずれにしても、投手を細かくつなぐ総力戦になるのではないか。
(記事=大島 裕史)