都立片倉vs都立青山
初回の6点リードを逆転された都立片倉が、9回に追いつき延長の末、都立青山を下す
帽子を飛ばして力投した片倉のリリーフ、小野田君
<秋季高校野球東京都大会:都立片倉8-7都立青山(延長10回)>◇8日◇1回戦◇多摩一本杉
1次ブロック予選では青稜、目黒日大にいずれも5回コールドゲームで勝ち上がってきた都立片倉。序盤にドカンと大量点を挙げて、それを守り切って逃げ切るというのが勝負スタイルだ。その反面、リードされると案外脆いところがあったのも確かだ。ところが、この日の都立片倉はそんな今までのイメージを少し覆すような戦いぶりを示した。
都立青山は、神宮球場のすぐ前にある都立校だ。選手たちは、東京六大学や東都大学野球の高いレベルの野球の空気を感じながら日々励んでいる。この秋は、代表決定戦で明星にコールド勝ちする力を示すなど勢いはある。都立片倉の宮本秀樹監督も、「明星を0に抑えている投手だから、最初にたたかないと苦しくなるのではないか」という思いはあったという。
その都立片倉の初回は、ブロック予選での戦いぶりを示すかのように凄まじかった。1死後、四死球と2つの暴投に石川空汰内野手(2年)、関田海陽外野手(2年)の連打と送球ミスもあって3点が入って、なおも1死一、二塁。ここで7番・鈴木廉斗外野手(2年)が左翼へ本塁打してさらに3点を追加。いきなり6点を奪った。
これで、都立片倉ペースというか、コールドゲームになることもあるかもしれないという展開だった。しかし、都立青山の木島克彦監督も、ベンチに戻ってきた杉山新投手(2年)に「もう点は取られないから大丈夫だ。これからコツコツと返して行こう」というような声を掛けたというが、打線もそれを実践していった。
初回には2死二塁で4番岡田拓外野手(2年)の二塁打で1点を返す。そして4回には杉山自身が三塁打を放ち、続く橘璃音内野手(1年)の右前打や2番・山田耀生内野手(2年)の2点適時打となるバント安打でこの回3得点で2点差。さらに5回は暴投で1点差とし、6回に失策絡みで5番・平出琢磨捕手(2年)の中前打で同点に追いついた。
さらに7回、1死後、橘の右翼線二塁打と、9番・桑門煌人外野手(2年)の左前打でついにリードを奪った。
試合の流れとしては都立片倉にとって、完全に不利な展開になった。ことに、「チームの乗りで試合をする」というところのある都立片倉の場合、逆転されると意気消沈していくところも多かった。それだけに、そのまま都立青山に押されていってしまいそうなところもあった。
しかし、この秋の都立片倉は少し違った。9回1死二塁という場面から主将の6番・甲斐甚哉外野手(2年)が右翼線を破る二塁打で同点とした。「よく打てたと思う。絶対打ってやるということは見せていたのだけれども、実は心臓はバクバクだった」と、その時の気持ちを語ったが、これで都立片倉は繋がった。
都立片倉のマウンドは8回から西村哲哉投手(2年)に代わって、今回の登録で急遽1番をつけることになったという小野田礼人投手(2年)がリリーフのマウンドに立っていた。宮本監督としても、「投げてみないとわからないところがあるから、正直どうなるかわからない」という思いで送り出していた。
10回、都立片倉はこの回先頭の荒井龍之介内野手(2年)が左前打で出塁。2つの暴投で労せずして三塁まで進むと、無死一、三塁となったところで2番・湯地詠斗内野手(2年)が右犠飛を放ってこれが決勝点となった。
小野田は自分のペースで丁寧に投げて3イニングを0に抑えた。自身としては60点ということだったが、「自分でやれることは、やって投げられた」というところはあったようだ。
まさに、薄氷を踏む思いの勝利となった都立片倉だった。宮本監督は、「今までの片倉だったら、逆転されたところで多分、ダメになっちゃっていたんだろうと思う。だけど、今年のチームの子たちは例年に比べて弱いけれども、その分、案外粘り強くて何とかしようというところがあるんだよね」と、不思議な力を感じていた。
青山の木島監督は、「(杉山投手は)初回には、よく点を取られるのだけれども、その後はよく抑えているんですよ。だけど、6失点はちょっと大きかったかなぁ。それでも、その後はしっかりと抑えていましたからね」と、杉山の2回以降の投球に関しては評価していた。そして、「今年の2年生は格別能力が高いということではないけれども、練習に対しては意識が高いと思える」と、少人数ではあるが、選手たちの気持ちの持ち方は評価していた。
(記事=手束 仁)