中学軟式144キロ右腕・小川哲平の野球人生 小学生時代はソフトボール投げで市内記録を50年ぶりに更新【前編】
2018年の夏、中学軟式の歴史が塗り替えられたのを覚えているだろうか。
阪神にドラフト1位で指名された森木 大智投手(高知高出身)が、当時中学3年生の時に、史上最速150キロを計測。多くのメディアが取り上げ、大きな話題となった。
それを見ていた当時小学6年生だった少年が3年後、最速144キロの剛腕となって、中学軟式野球界を騒がせ、春からは高校野球に挑んでいく。
小学6年生で120キロを計測する超強肩ピッチャー
小川哲平(落合中)
日光市立落合中3年生・小川 哲平投手。全校生徒162人の小さな中学校の野球部で3年間プレー。部員数11人と小規模のチームにいながら、最速144キロを計測する逸材として、選抜チーム・ALL栃木には2年連続で選出された。
特に、3年生の時には文部科学大臣杯第12回全日本少年春季軟式野球大会日本生命トーナメントで準優勝を経験。濃密な中学野球3年間を振り返り「成長したことはもちろんですが、仲間の大切さを感じました」と落合中の環境だったからこそ、チームメイトの大切さをより一層感じたようだ。
と同時に「人数が少なかったからこそ考えて練習をやってきました。これは、今後のステージにも生かせると思います」と、野球への取り組み方も自身の今後にプラスに働くと話した。
受け答え1つとっても中学生とは思えない立ち振る舞いをするが、野球人生の始まりは4、5歳ころだったと振り返る。
6つ上のいとこともキャッチボールをしていたこと。世間でも高校野球がテーマとなったテレビドラマがブームになっていたこともあり、幼いときから野球に触れ合う環境に囲まれて育ち、2013年、小学1年生になると落合東フェニックスへ入団。投手をメインにして、様々なポジションを守っていたという。
「当時は球が速いのがすべてだと思っていたので、とにかく速い球を投げようと一生懸命でした」というが、小学6年生で最速120キロをマーク。6年生とは思えぬ球速をマークしており、才能の片鱗は早くからのぞかせていた。
その裏側には根拠があった。
「ソフトボールの遠投で65メートルを投げ、日光市内記録を50数年ぶりに更新することができました。それがあったから、120キロを投げられたんだと思います」
小川はこの地肩を生かして、2018年、6年生になった小川は少年野球最後の大会で関東大会に出場。ベスト8まで勝ち上がり、大舞台を経験することになった。
[page_break:森木大智を追いかけて到達した144キロ]森木大智を追いかけて到達した144キロ
小川哲平(落合中)
中学への進学が迫ってきた当時6年生だった小川は、あの男の快挙を動画で見ることになる。
「初めて見た時は『フォームが綺麗だな』とか『体つきが凄い』と思いましたけど、150キロを出されたことは衝撃でした」
当時、高知中の3年生だった森木が史上最速150キロをマーク。12歳の小川は、この偉業を知り、心の炎が燃えた。
「森木さんが150キロを出されて、軟式野球の良さがわかったこともあるんですが、『自分もやってやろう』と燃えたところがあって、森木さんを目標にやろうと決めました」
近年のプロ野球界では、中学時代が軟式だった投手が第一線で活躍することが増えてきた。小川も6年生ながら情報は知っていたこと。さらに、「高校野球で活躍できるように中学でケガをしない」ということも考慮して、硬式に進む話を蹴って、森木が活躍した軟式野球へ進むことを決めた。
森木を超えるために、自身に目標を課した。
1年生で135キロ、2年生で145キロ、そして3年生で150キロ。
いくら6年生で120キロ計測していたとはいえ、並大抵の練習では決して達成できない領域だ。しかし結果として、2年生の秋には144キロを計測しており、ほぼ理想通りの成長曲線を描いている。
背景にあったのは、森木も取り組んだレッドコードトレーニングの導入だった。
6年生の卒業間際より取り入れた練習メニュー。高い位置から吊るされたロープに手足をかけて、不安定な状況で、トレーニングをすることでバランスと体幹を強化するというものだが、小川はこれで4つの動きをする。
腕立て伏せやランジ、さらには投球の動きも不安定なロープに手足をかけて行うという。「体幹と内転筋が今後必要だと思ったんです」ということや森木が実践していたメニューということで取り入れることにした。
そうすると、徐々に球速が高まり、1年生秋に134キロ、2年生秋に144キロと順調にスピードアップ。ウエイトトレーニングをほとんどせず、レッドコードトレーニングだけをやってきて、これだけの結果が出たという。一体、このメニューを通じて小川に何があったのか。
「フォーム全体を見ると、動きが安定することで、フォームそのものの安定性や再現性が高まるので、ピッチングのブレが少なくなりました。
自分の思い描いた通りのフォームで動いて、理想のリリースポイントで投げられる確率が高いので、球速やコントロールも安定したことが一番大きいと思っています」
小川自身、ピッチングする際に、「すべての始まりになる部分なので大事にしています」という軸足で立った時のバランスの良さを重要視している。同時に試合中にはフォームの安定感をポイントに掲げているとのことで、レッドコードトレーニングで養った能力は、投球にも大きな要素だと認識して投げている。
森木を目標に、森木に刺激されて中学野球3年間を過ごしていく小川は、大舞台を通じて次第に自信を深めていく。
(記事:田中 裕毅)