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王座奪還を目指す東海大菅生 2年分の思いが込められた「メークドラマ」

2022.01.05

王座奪還を目指す東海大菅生 2年分の思いが込められた「メークドラマ」 | 高校野球ドットコム

 1995年のプロ野球で、不振であった巨人の長嶋茂雄監督は、「メークドラマ」という言葉を使って、選手の奮起を促した。巨人はこの年は優勝できなかったが、翌96年に首位と最大11.5ゲームをつけられながらも逆転優勝。「メークドラマの完成」と言われた。

 コロナ下で入学した今の高校球児。人それぞれにドラマがあるに違いない。中でもドラマ性を感じるのが、東海大菅生だ。

 今の2年生が入学した時、コロナによりセンバツに続き夏の選手権大会も中止になった。そこで行われた独自大会。東海大菅生は西東京大会の決勝も、帝京との東西決戦も、劇的な勝ち方で栄冠を手にした。当時としては、独自大会を開催するだけでも大変なことであった。とはいえ、負け知らずで夏を終えながら、甲子園に行けない悔しさもあったはずだ。

 そうした思いを受けた今の3年生は、秋季都大会を制し、センバツ出場を決めた。センバツでは2回戦で京都国際戦を、9回に多井 耶雲(2年)の劇的な逆転サヨナラ二塁打で破るなどして準々決勝に進出したが、準々決勝の中京大中京(愛知)戦では、肩の違和感を訴えていたエースの本田 峻也投手(3年)が本来の投球ができず敗れた。

 そして迎えた夏の甲子園。雨で泥田のような状況で行われた大阪桐蔭との一戦。インステップから体をひねって投げる本田には不利な状況であり、足を滑らせ、転倒することもあった。それでも優勝候補相手に、7回に一時は1点差まで詰め寄り、なおも2死二、三塁から、4番の小池 祐吏内野手(2年)は三振に終わった。そして8回表の途中で試合は32分間の中断の後、中止になった。

 この試合のベンチには2年生も多くいた。彼らもまた、3年生の思いを受けての戦いになる。

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全国レベルの戦いができるメンバー

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福原 聖矢(東海大菅生)

 新チームの主将は福原 聖矢捕手(2年)だ。1年生の夏から試合に出ており、先輩たちの思いを一番身近に感じていた。沖縄本島南部の東風平の出身。中学2年、3年とU‐15日本代表に選ばれ、2年生時のU‐15日本代表の投手であった本田に誘われ、東海大菅生に入った。

 俊足、強肩で、リードにも定評がある。夏の甲子園では、何度もマウンドに行って、本田に声をかけた。

 父親が今年引退した西武・松坂 大輔投手とともに春夏制覇を果たした横浜高校の外野手で、現在はDeNAコーチである小池正晃氏であることでも知られる祐吏は、新チームでも4番打者だ。夏の甲子園では、泥まみれになってのダイビングキャッチをした一方で、7回表のチャンスでは三振に終わっている。

 その他、二塁手の小山 凌暉内野手(2年)、遊撃手の金谷 竜汰内野手(2年)が試合に出ており、ベンチには、センバツで抜擢され、活躍した鈴木 悠平(2年)と多井 耶雲(2年)がいた。このように経験者が多いうえに、秋季大会からレギュラーになった酒井 成真(2年)も準々決勝の日大三戦で本塁打を放ち、チーム屈指のパンチ力を示すなど、可能性はないものの、センバツに出場すれば、おそらく優勝候補になるだけのメンバーは揃っている。

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メークドラマ完成の鍵はエース・鈴木泰成の復活

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鈴木 泰成(東海大菅生)

 ただ秋の誤算は、エースの鈴木 泰成投手(2年)だった。長身から投げ下ろす速球でセンバツでも好投し、早くもドラフト候補の呼び声もあった。しかし6月に肘を痛め、夏の甲子園のメンバーから外れた。秋は肘の痛みはなくなったはずだったが、調整不足だった。準々決勝の日大三戦では、1イニングを持たずに降板。敗戦のきっかけになった。

 東海大菅生には、投球に安定感がある沖縄本島北部の本部町出身の島袋 俐輝投手(1年)、身長190センチの大型投手である日當直喜投手(1年)といった1年生に、二刀流の多井、球威のある豊岡 遥翔投手(2年)ら楽しみな投手がいるが、2022年に輝くためには、鈴木 泰成の復活が不可欠だ。

 2019年の秋、ダイワハウススタジアム八王子(現スリーボンドスタジアム八王子)で行われた日大三戦で、東海大菅生は逆転で敗れている。その翌年、夏の独自大会を制し、秋季都大会も制した。この秋は、日大三戦で9回表に追いつきながら、その裏サヨナラ負けを喫した。

 流れは、決して悪いわけではない。2022年、もし全国制覇をすれば、「メークミラクル」となるだろう。それはそう簡単な話ではないだろうが、コロナの年に入学し、様々な経験をしてきた今の2年生が、どのような形で高校生活最後の夏を迎えるか。そこにどんなドラマが待っているか。期待を込めて、注目したい。

(記事:大島 裕史

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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