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甲子園2度出場・水城(茨城) 150キロエースの穴を全員で埋めて逆襲の春に

2022.01.05

 関東王者・明秀学園日立が君臨する茨城県。私立勢を見れば常総学院土浦日大などがあり、公立勢にも水戸商竜ヶ崎一など各校の実力は拮抗しているが、全校が春に明秀学園日立を撃破するためにも、冬場の練習に取り組んでいる。その中の1つに水城がある。

 過去2回、甲子園に出場した実績があり、2021年は春、そして夏ともにベスト4進出。150キロ右腕・樫村佳歩投手を擁して常総学院と接戦を展開。茨城県の上位まで勝ち進んだ実力校として、再び県内に名を広げた。

準備不十分で戦い抜いた秋季大会

甲子園2度出場・水城(茨城) 150キロエースの穴を全員で埋めて逆襲の春に | 高校野球ドットコム
ノックを受ける水城の選手たち

 勢いそのままに新チームも結果を残し、茨城の第1勢力へ、といきたいところだったが、「樫村ロスといいますか、1人で投げ切れる投手がいなかったのが大きかった」と関根監督が振り返るように、150キロ右腕・樫村の存在は大きく、投手陣の整備が不十分。なおかつ野手陣も前チームからの経験者が2人だけで、チームはほぼ総入れ替えという状況だった。

 これには、「先輩たちの代に試合出ている選手が少なく、チームを最初から作るのが大変だった」と小口竜久斗(2年)も話すほどだった。そういった状況の中で、新型コロナウイルスの影響が襲い掛かる。

 水城は樫村たち3年生が準決勝まで勝ち進んだことで、現在のチームの始動は7月下旬ごろからと、県内のチームに比べると必然的に遅れた。そこに新型コロナウイルスの再拡大で、チームは9月下旬ごろまで活動休止を余儀なくされた。

 9月から再開したものの秋季大会はわずか2週間。ほかの学校と条件が同じとはいえ、メンバーが総入れ替えに近かった水城にとってはチーム作りをするには時間が足りず、秋季大会を勝ち抜くには厳しい状況だった。

 結果、県大会2回戦敗退と早々に姿を消すことになってしまったが、地区予選では逆転勝ちを収めるなど、春先への手ごたえもあった。関根監督も「(秋は)粘り強く戦えたので、それを春以降も繋げてやっていきたい」と粘り強い攻撃には及第点を与えた。

 しかし、チームの完成度は未熟だ。3年生である中居泰雅前主将も「守備か攻撃か、どちらか決めて鍛えていかないといけないと思います」とコメント。前エース・樫村も「自分たちの戦い方が確立できていない」と中居前主将と同じ課題を指摘する。関根監督も同様の課題を口にしていたが、それよりも苦しかったのはチームの一体感に生まれなかったことだと話す。

 「ウチの場合は夏の大会でベスト8、ベスト4以上というのを毎年目標に戦いますが、そこまで行くのは簡単ではないんです。全員が目標に向かって一体感をもって勝ち上がらないと達成できないんです。
 逆に言うと、それが伝統として毎年できているから結果を残せていると思うので、一体感は大事ですね」

[page_break:全員で考えて量をこなす]

全員で考えて量をこなす

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トレーニングをする水城の選手たち

 チームを1つにまとめることは、水城に限らず強豪校にとっては必要不可欠の要素だ。そのために主将、あるいは指導者が様々な働きかけをして一体感を作っていくものだが、水城の場合は、時期に関係なく全員が同じ練習をこなすことで、まとまりを作ろうとしている。それは大会前であってもだ。

 多くのチームがそういった時期になると、サポートに回す選手が出てくることもあるが、水城はどうしてそれをやらないのか。
 「高校時代、恩師の橋本先生は必ず全員で同じ練習をやらせてくれたんです。特に私はあまり実力がなかったのですが、そんな私でも最後まで全員で同じ練習をさせてもらえるのはありがたかったです。
 だからこそ、今の選手たちにも同じことを伝えたいですし、感じてほしいので、全員が同じ練習をできるようにしています」

 そのために練習の合間の時間を短くする。指導者から言われる前に、選手同士で自主性をもって行動する。とにかく、スピード感をもって取り組むことで、全員が同じ練習をできるだけの時間を確保しつつ、練習量をこなせるようにしている。

 全員でスピード感をもって取り組む練習環境に「全員が同じことをやれるので、学年関係なく指摘しあって高めあうことができている」と同じメニューをこなしているからこそ切磋琢磨できていることを大塚柊哉投手(2年)は実感している。

 ただ、全員が漠然と練習をこなせばいいというわけではない。1つのメニューに対してどれだけ考えて取り組めるかが大事だと関根監督は考えている。
 「ウチは練習量をこなしてナンボですが、選手たちには『練習は嘘をつくから』と話しています。何も考えずにやっても流れ作業と同じなので、上手くなりません。嘘をつくような練習になります。
 まして中学時代に実績がある選手が入学してくるわけではないので、常に考えて練習をして、次の日も改善を重ねる。それができる選手が上手くなると思うので、考えてやらないとダメです」

 そのための工夫を練習から施されている。

[page_break:練習が嘘をつかない方法で巻き返し図る]

練習が嘘をつかない方法で巻き返し図る

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小口竜久斗と大塚柊哉

 打撃練習ではゲージを5か所用意して、10分間で50~60本ほど一斉に打ち込む。待っている間にはトレーニングを課すことで、無駄な時間を極力なくし、効率的に量をこなす。

 守備では複数のノッカーが休むことなく打ち続けて、とにかく数を受ける。一方で2か所でバッティング練習をする際、主力組は守備に就かせる。こうすることでより実戦に近い打球をさばけるため、今度は質の高い練習を多くこなせるようにしている。

 ちなみに打つ選手は、打ち足りていないであろう、もしくは打撃を磨いてほしい選手を関根監督がピックアップ。仲間のため、そして自分のためにバットを振り込むことで、選手それぞれがレベルアップを図れるように回している。

 関根監督が「練習をこなしてナンボのチーム」と話すように、数多くこなせるメニューを設定。同時に実践に即した内容も組み込むなど、「練習は嘘をつかない」ように指導者間で工夫を凝らして、選手たちをたたき上げで鍛え上げていく。

 こうした練習を全員で乗り越えていくことで、夏場を勝ち抜くための一体感を作り上げていく。これが関根監督が、恩師・橋本先生から教わり学んだチームの作り方なのだ。

 秋季大会では、無駄な四球とエラーから負けに繋がった。であれば、関根監督の指導に沿って、ひたすら実戦を想定して鍛えなければ、ミスは減らない。また甲子園への道も開けない。

 今後に向けて大塚は、「秋の悔しさを忘れず、全員で同じ練習で乗り越えて、春は秋の悔しさをぶつけたい」と話せば、小口も「一人一人が高い意識で乗り越えて、春は秋のリベンジができるようにしていきたい」と2人揃って巻き返しを誓った。

 秋は準備不十分で、不完全燃焼で大会を終えた。春は万全な状態で、強豪ひしめく茨城を全員で勝ち抜き、夏への弾みをつけていきたい。

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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