高校時代の村上 宗隆内野手
村上宗隆 恩師が語るシリーズ
■第1回
「ゴロではなく、フライを打て」MVP候補・村上宗隆の九州学院時代の恩師が語った飛躍の原点
■第2回
なぜ村上宗隆は高校時代、捕手へコンバートしたのか?その真意とは
■第3回
ライバルにするのは清宮幸太郎らではない。九州学院の恩師が村上宗隆に授けた金言
■第4回
「あいつは世話好きのおばちゃんです」村上宗隆の恩師が語るキャプテンシーの素質
■第5回
村上宗隆の恩師が褒めた「数字」と「姿勢」。そしてこれから願うこと
2021年の日本プロ野球はヤクルトの日本一で幕が下りた。15日には「NPB AWARDS 2021」が行われ、熊本出身の1人の若者が、セ・リーグ本塁打王として晴れの舞台に臨む。
ヤクルト村上宗隆内野手(九州学院出身)。プロ4年目の今季、39本塁打を放ち、巨人の岡本和真内野手(智辯学園出身)とともに、セ・リーグの本塁打王に輝いた。そのほか、283塁打はリーグトップ、112打点、長打率.566がリーグ2位。東京五輪でも金メダルを決める本塁打を放つなど、日の丸のスラッガーとしても活躍した。
その基礎は故郷熊本・九州学院の3年間で培われたといっても過言ではない。その秘密を探るため、当時の恩師、坂井 宏安・九州学院前監督にインタビューした。言葉をひも解くと、「村上宗隆」がスラッガーへと変貌を遂げる過程が分かってくる。
今回は長距離砲の秘密に迫る。
プロ4年目を最高の結果で締めくくった村上について、坂井前監督もねぎらいの言葉から始まった。
坂井前監督(以下坂井) 長いシーズン、よくぞ乗り切れたと思います。体力をつけたのも練習のたまものでしょう。連絡はあまりとってないですよ。五輪出場が決まったとか、優勝しましたとか、そういう連絡はありますが、こっちからは連絡しないようにしてます。我々と村上ら選手は(生活の)時間帯も違うし、こっちからよく連絡していたら村上は集中できせんから。
村上を最初に見たのは入学前の練習見学。その姿に「一目ぼれ」していた。
坂井 一番最初の時は大きいなと。体が出来ている子だなと思いました。初めて練習参加した3月25日だったかな、ユニフォームの着こなしがいい、ユニフォーム姿がとてもいいと思った。練習しても声が出ているし、野球を楽しんでやっている子だなと思いましたね。
過去、九州学院から「松坂世代」の吉本 亮内野手(現ソフトバンク2軍打撃コーチ)、高山 久外野手(現西武1軍打撃コーチ)の2人のスラッガーを輩出しているが、その再来を予感していた。
坂井 久しぶりに吉本、高山のふたりに匹敵する感じがありました。トスバッティングは柔らかいし、バットを持っているけど、投げる相手とキャッチボールしているようなトスだった。普通はバットと球が衝突してしまうが、力も抜いて、力まないトスだった。天性でしょうね。野球をしていた兄を真似してやっていただろうし、出だしが良かったんでしょう。
そのトス打撃の上手さにほれ込むと、ある指令を出した。
九州学院・坂井 宏安前監督
坂井 バットの芯ではなくフライを打ちなさいと言っていた。球に回転を与えられるように。フライは構わないよ、フライを打てと。ゴロはダメだよと。打球を飛ばすというのが彼らの喜びでもある。投手ならスピードボールを投げたくなるでしょう。彼は飛ばすことには興味を持った。
村上はどんどん飛距離を伸ばしていく。九州学院の専用グラウンドの右翼後方にあるサッカー場へ放り込むことは当たり前。左中間から左翼は一般道路があってその先は竹藪になっており、吉本、高山が右打者だったこともありネットを高くしているが、左打者の村上はそれを越すようになる。
坂井 スコアボード後方に駐車場があるんですが、何回か車にもぶつけました。だから、フリー打撃の時はいい球は使えないんです。古い球というか飛ばない球でないとダメだった。新球だとポンポン飛ばしてしまいます。藤崎台球場で沖縄尚学とやったのが一番飛んだかな。ライトはるか、場外に飛んだらしいです。あとは、神奈川の慶應義塾高校と練習試合したとき、慶應義塾高校のグラウンドにある高いライトのネットをあと少しで越すくらいまで飛ばしましたよ。
左翼、センター方向にも、たぐいまれな飛距離を生み出せるようになった。「フライを打て」「芯で捕えてもダメ」「ゴロもダメ」。高校生に成長する喜びを実感させるため、徹底的にフライを打たせた。アベレージヒッターではなく、スラッガーとしての素質を見抜いた坂井前監督の眼力と指導力が、村上をとてつもなく大きくした。
(記事=浦田 由紀夫)
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