復活を目指す水戸商のモデルは「関東一」。きっかけは19年国体【後編】
秋季関東大会を制したのは、茨城県の明秀日立だった。重量打線を中心に春先も茨城の高校野球をリードしていくのは間違いないだろう。
ただ茨城と言えば春10回、夏16回と県内トップの出場回数を誇る常総学院が、第一勢力として昔から今もなおリードとしているのも事実だ。2020年の選抜でも躍進を見せたが、その常総学院に次いで、春4回、夏10回の甲子園出場実績を持つのが、水戸商だ。
後編では、古山監督が伝統校の土台に上乗せしてきたことを見ていきたい。
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春夏通算14回の甲子園出場 119年継承される茨城の伝統校・水戸商イズム【前編】
関東一との出会い
水戸商・平山 颯士
母校・水戸商の指揮官に就任する前、2019年に茨城県では国体が開催された。この大会に東東京・関東一が出場し、古山監督は担当者としてチームと関わる機会ができた。関東一の足を使った野球に心惹かれていた古山監督にとっては願ってもないチャンスだった。
直接、米澤監督と話す機会は作れなかったことは、今も残念そうに振り返るが、当時のことは鮮明に覚えていた。
「選手がそれぞれどうやったら上手くなるのか。試合だったら勝てるのか。自分たちで考えることができるので、指導者もアドバイス程度の指導だけであまり怒らない。選手たちに聞いても『あまり怒ることはないです』というものですから、衝撃でしたね」
2年前の貴重体験を興奮気味に振り返る。そのうえで、「本当の意味での主体性、自律はこれだ」と、生きた教本を間近で見て学び、吸収した。その実践の一端が、答えを選手に伝えない指導方法だという。
こうして恩師である橋本先生から伝えられてきた自主性、自律という概念に付け加えるように、関東一で学んだことを現在は実践して、選手たちを育てている。時には手伝いに来た3年生に実演をしてもらうなど、監督自ら0から100まで伝えるのではなく、考える隙を作ってあげていた。まさに、古山監督があこがれ、現役時代に経験した主体性、自律を重んじた指導だった。
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ミーティングの模様
伝統を引き継ぎつつも、上乗せをしながら秋季大会の準備を進めた。経験者が残っていたこともあり期待を寄せられているなかで、夏休みは順調に調整を進めた。
しかし、新型コロナウイルスが蔓延したことで、「張りつめていたものがなくなった」と古山監督は当時のことを思い出し、大会直前の調整は難航した様子だったと振り返る。
そうした状況となったことで「メンバーを固定してチームを仕上げました」と、鯨岡 遼雅主将は、とにかく大会で結果を残すために最善の努力を尽くした。「先輩になって責任が生まれて、思うように力を発揮できなかった」と平山は語ったが、2回戦・竜ヶ崎一を相手に敗れ去る結果になった。早々に水戸商の秋が終わった。
計算外の自粛期間で、思うような成績を残せなかった。目標だった「野手は3点以上、投手は完封で抑える」ということを達成できなかったことも受け、フィジカル強化を見直している。
メンバーは敗れた悔しさを持つは当たり前だが、1年生はローカル大会で結果を残し、2年生も引き上げられるように、競争心を持って練習をしている。チーム状態は良いと鯨岡主将は分析する。良い形でオフシーズンを過ごすこととなりそうだ。
春を迎えれば、再び伝統校として戦うこととなる。様々な年代層からも注目を浴び、期待とプレッシャーがかかることになるだろう。しかし「温かいお言葉をかけてもらっているので、プレッシャーはありません」と鯨岡主将は話す。
続けて平山も「練習試合が終わってから声をかけてもらうこともあるので、心強いです」と口にする。歴史の長さは重みではなく、選手たちの支えとなっている。
「監督から、『1球にがむしゃらになれ、1球を大切にしろ』とよく言われています。それをチーム全員が意思統一して取り組めれば、甲子園に近づけると思います」(鯨岡主将)
古山監督の指導についていく姿勢を意気込みで示した鯨岡主将。水戸商の伝統に加え、関東一の自律でチームをたたき上げる古山監督だが、最後にこう締めくくった。
「自分で上手くなろうとすることが必要で、そのためには練習量はこなしながら、目的意識も明確にしないといけないので、考えて行動しなければいけないです。だから自分を知って、つらいことにも立ち向かう。自分を律する心、つまり克己や自律が最終的に求められると思っています」
14年ぶりの甲子園へ。まずは春に伝統校としての矜持を示せるか。夏への試金石となる春季大会の戦いぶりに注目だ。
(取材:田中 裕毅)