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甲子園3度出場・東海大市原望洋 会話のキャッチボールが好投手を育てる

2021.09.14

 春夏合わせて3度の甲子園出場。さらに金久保 優斗島 孝明という2人の投手を高卒プロ入りさせるなど、激戦区・千葉県で強豪として注目が集められる東海大市原望洋。今夏は専大松戸に5回戦で敗れたが、木村 旭が強力打線を1点に抑える投球を披露した。

 さらに今年は三山 大輔太田 豊人という左右のWエースを擁する。「2人の存在は大きいです」と相原 海人主将も話すほどの存在感だ。しかし、それだけの投手が育つのはどんな秘密があるのか。今回はそんな疑問をもって、市原市に所在する東海大市原望洋のグラウンドを訪ねた。

会話のキャッチボールの多いブルペン

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ブルペンの様子

  両翼91メートル、センター118メートルの広大なグラウンドをフルに活用して日々練習を行う東海大市原望洋。「現時点では5点を取れる打線だと思っているので、この時期であることを考えれば、良い打線だと思います」と指揮官・相川 敦志氏も語るように、グラウンドからは快音が響く。見ていて気持ちいいバッティングだ。

 そこから少し離れたレフト奥にブルペンがあり、取材日は投手陣が精力的にピッチング練習をしている姿が見られた。

 その時に気が付いたのは、18.44メートルで飛び交う言葉のキャッチボールが多いことだ。

 「(カウントは)2-1?そうしたら1球外したい」(ピッチャー)
 「(投げ終えて)内に外れちゃダメだ」(キャッチャー)
 「(キャッチャーに向けて)なんで外したいと思った?(ピッチャーに)言われたときに何を感じたの?」(濱崎雄作部長)
「自分は先にインコースで取りたいと思ったのですが、その前に外を見せようと思いました」(キャッチャー)

 取材日のブルペンであった会話の一端だが、投手指導を担当している濱崎部長を交えた三者間でコミュニケーションが頻繁だった。

 ブルペンというと、ボールの結果に対してキャッチャーがいくつか言葉を発する。もしくは投手がフォームなど技術的に気になったことを話すことはあっても、実戦を想定しつつボールの意図まで細かく話すことは少ないのではないだろうか。

 このことについて、投手陣の指導を中心に当たっている濱崎部長は、実戦意識が大事だと話す。
 「練習から意図をもってやるべきだと思っています。試合であればボール1球投げるのに意図がありますから、試合のような感覚で投げなさいと。投球練習という感覚で投げないように指導しています」

 左のエース・三山は当初、「中学と違い、改めてコミュニケーションの重要性を確認できました」と認識を改めると、現在は「今年は試合になってしまうと普段通り投げられない投手が多いので、練習から実戦意識を持って取り組むことは課題になっています」と試合を強く意識してブルペンに入っている。

 実際、ブルペンで50球投げるのであれば、10球はその日投げたいボール。投球練習として確認作業に費やすと、残り40球は試合を想定して投げるようにして、試合に備えているそうだ。

 ピッチャーばかりが工夫をしているように思われるが、キャッチャーも要求したところに投げてもらえるように、工夫をしているという。

 「要求するボールにどんな意図を持たせるのか。また要求に応えてもらえるように、同じコースに同じ球種のサインを出しても、カウントによって構えるところも変えるようにしています」(日髙 彰太

[page_break:土台にあるのは考えて伸ばす]

土台にあるのは考えて伸ばす

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相原 海人主将(東海大市原望洋)

 打者心理になって考えて、どのボールがベストなのか。濱崎部長の指導を受けながら、バッテリーは成長し続けている。すると、「どんなボールが来るのか絞りやすいです」と思わぬ効果があるとキャッチャー・日高はブルペンでの指導が打席でも力になっていると話す。

 主将の相原 海人も「打撃に繋がるのもありますが、守備では先読みしてシフトを敷くことも出来るので、参考になりますし、自分自身は少しずつわかるようになってきました」と語る。

 バッテリーのレベルアップが、野手たちにもプラスの効果を発揮している。こうした形でチーム全体の底上げに繋がっているが、一番の土台としてあるのは、選手それぞれの考える力にあると相川監督は話している。

 「新チーム発足から秋の大会までの準備期間は短いです。加えてウチの場合は、練習時間が短く、全員が自宅から通っています。制限がある中で、自分で考えて成長をするのが東海大市原望洋の柱です。
 だから、練習試合で繰り返し同じミスをすることだけは嫌なので、試合でミスした選手には、繰り返さないように違う練習をどんどん考えてやってほしいと思っています」

 こうした方針の中で秋季大会は県大会まで勝ち進んできた。しかも地区予選2試合とも10対0の5回コールドと盤石の試合運びだ。この結果に対しては「順調に勝ち上がったと思います」と相川監督も納得の勝利だった。

 相原主将も「投手を中心に無失点。打線も繋ぐことが出来たのは良かったです」と振り返りながらも、細かいプレーでのミスが今後の課題だと語る。

 とはいえ、今年のチームは「分析をすれば、5点くらいなら取れる打線です」と相川監督も4番・日高を中心とした打力を高く評価している。なおかつ、「柱ができつつある」という三山、太田が主力となる投手陣の成長にも目を細めている。

 投打で戦力が整いつつある。だからこそ、上位進出へ投手陣には「1試合3点以内に抑えること」という課題を提示している。

 采配をするうえで試合の計算を立てるためというのもあるが、強豪校の投手陣になると5点近く取ることが難しいだろうと、考えたうえで投手陣へ要望を出している。

 この要望に応えるべく投手陣はさらなる成長を求め、野手陣もピッチャーを援護できるように取材日は精力的にバットを振っていた。10日の抽選会で初戦は千葉明徳に決まり、1回戦屈指の好カードとなった。

 選抜、甲子園に繋がる数少ないチャンスをつかもうと県大会へ挑む東海大市原望洋。相原主将は、「先輩の分を背負って県大会で優勝して関東大会で出場して選抜行けるように、勝ちにこだわって、これからも練習したいと思います」と4度目の甲子園へ闘志を燃やしている。

 相川監督も「一戦必勝ですが、秋からこれだけ力があるのは毎年作れることはないです。ですので、チャンスがあるなら甲子園で校歌を歌う大きな目標にチャレンジしたいと思います」と高々と目標を掲げた。

 投打で充実した選手を整える東海大市原望洋。初戦・千葉明徳から再び甲子園出場への道のりを進んでいく。

(取材:田中裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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