試合レポート

沖縄尚学vs阿南光

2021.08.16

コツコツ努力の當山が「左腕対決」制し、沖縄に100勝もたらす

沖縄尚学vs阿南光 | 高校野球ドットコム
當山渚(沖縄尚学)

◆両左腕の出来がポイント

 沖縄尚学阿南光の一戦は、両チームともにエース左腕同士の投げ合いが実現した。

 沖縄尚学は3年生・當山渚阿南光は2年生・森山暁生の2人だ。

 當山は沖縄大会21回3分の1を投げて無失点と安定感は抜群の投手だ。与四死球も3つのみと、制球力が高く大崩れは考えにくいサウスポーである。

 対する森山は徳島大会の4試合36回すべて1人で投げ抜いて、わずか3失点である。与四死球15個あるものの奪三振は29個記録しており、本格派と言っていい2年生サウスポーだ。

 少しタイプの違うエース左腕同士の投球が、相手打線にどこまで通じるかが試合のポイントとなってきた。

◆無四死球、12奪三振で沖縄県勢通算100勝

 試合は、まず沖縄尚学・當山が三者凡退に抑えて幸先よくスタートすると、リズムに乗った打線は阿南光・森山を攻め立てる。二死一塁から4番・知念 大河の一打などで2点入り、沖縄尚学が主導権を握る。

 2回、沖縄尚学・當山は阿南光4番・高木 裕介にこの試合初ヒットを許すものの、後続を斬って、阿南光の2回のスコアボードに0を刻む。3回以降も余計な四死球を出すことなく、阿南光打線に付け入るスキ与えない安定した投球で、反撃の糸口すら与えない。

 打線は2回にも追加点を奪うと、後半はコツコツ点数を重ね、8対0と点差を広げた。

 8回までで106球で、10奪三振、無四死球と完ぺきな内容で来た沖縄尚学・當山は最終回もマウンドへ。一死から代打・河野 陽介から11個目の三振を奪うと、最後も三振に抑えて12個目を記録してゲームセット。當山が沖縄大会から続く無失点記録を30回3分の1に伸ばすと同時に沖縄県勢100勝をもたらした。

◆フォームの安定感が投球の安定感?

 左腕同士の投げ合いは、沖縄尚学・當山に軍配が上がった。森山も140キロ超えの速球を投じたものの、失投を打ち込まれる結果となった。その逆で、當山は沖縄大会から変わらぬ安定感で阿南光を寄せ付けなかった。

 沖縄大会からわずか四死球3の驚くべき制球力は、フォームの安定感にあるのではないだろうか。

 ストレートでも変化球でも安定して同じフォームから多彩なボールが投げ込まれる。ピッチャーである以上、必須項目ではあるものの、イニングを追うごとに変化する様子もない。再現性がかなり高いのだ。

 かなりの練習量をこなしてきたのだろうが、その地道な努力を積み重ね続けたからこそ、投球フォームが安定し、ボールも安定した。そして試合でも安定した投球で勝ちに結び付けられる。

 小さな努力を重ね続けたことが、當山渚という安定感抜群のサウスポーを誕生させたのだろう。

[page_break:好投の秘密はキャッチボールの意識]

◆好投の秘密はキャッチボールの意識

 その努力に関しては、比嘉監督も「地道な努力が出来る選手です」と話しており、評価をしている部分だ。また投球面に関しても評価している部分が多い。

 「右打者へのクロスファイヤーだけではなく、アウトハイにシュート回転の強いボールがあります。それと同じ軌道からチェンジアップもあるので、ストライクゾーンに入っていくボール、逃げていくボールが技術的にあります。
またピンチの場面でも、慌てずに動じない。ピッチャーとしてのスキルが備わった投手です」

 絶賛を受ける當山だが、ここまでの好投手に成長できたのは、普段のキャッチボールが大きく関わっていた。

 「日ごろのキャッチボールからラインを意識することを監督から指導されています。再現性を高めるためですが、自分の場合、クロスファイヤーはシュートさせない。逆に、右打者の外はシュートしても良いから強いボールを投げるイメージを作ります」

 今大会も順延によって試合が長引いたが、練習中から常にラインを意識して調整を進めてきたという。普段の何気ないキャッチボールから高い士気をもって取り組んできたことが、阿南光戦の無四死球完封勝利であり、沖縄大会から0点が並び続けているのだろう。

◆最後の夏を戦い終えて

 敗戦を喫した阿南光。中山監督は「左投手独特の変化球を初球から狙いましたが、追い込まれるまで手を出せず、最後はストレートを見逃したり、変化球を振らされたりしましたね」とベンチから見た相手投手の良さを語った。

 一方で、自チームの2年生エース森山については、「ボールが浮いてしまいました。低く投げられれば抑えられたのではないかと感じています」と全力を出し切れるように調整ができなかったことを悔やんだ。

 「もっといい投手になってほしい」とエールを送ったが、阿南光・中山監督はこの夏が最後だった。最後の夏に甲子園に出場できたことに「楽しい思いができました」と少し晴れ晴れとした表情を見せた。

 そんな中山監督と最後に戦った夏に、エース森山は「最後の夏、徳島大会で優勝しても、1点を争う僅差(の試合)ができず、この結果で3年生と先生の最後の夏を終わらせてしまい、悔しいです」と胸の内を明かした。

阿南光を全国でも勝てるチームへ

 中山監督はこの夏で離れることになる。沖縄尚学戦が最後の采配となったが、「阿南光を全国でも勝てるチームに下級生は持っていってほしい」と新たな一歩を踏み出す1、2年生たちに強い願いを伝えた。

 その中心となるのは森山だろう。沖縄尚学と甲子園で戦い、「ランナーがいた場面でも0点に抑えられたところは落ち着いて対処できました」とピンチを防げたことに自信を深めつつ、同じ左腕である先輩・當山に投げ負けたことに「ライバルだと思って、一歩ずつ確実に近づいて、超えられるようになりたいです」と目指す目標を語った。

 140キロ台を計測する真っすぐは魅力的だった。まだ2年生であることを考えれば、今度の成長を期待せずにはいられない。徳島の逸材がどんな成長曲線を描くか見守っていきたい。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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