試合レポート

日大山形vs米子東

2021.08.10

日大山形・斎藤は剛速球なくとも勝てるエース、12本で証明した古豪の意地

日大山形vs米子東 | 高校野球ドットコム
齋藤堅史(日大山形)

◆攻撃型チーム同士の一戦で光った投手力
 日大山形は3番・佐藤 拓斗、4番・伊藤 翔海を軸とした攻撃力を武器とする。対する米子東は鳥取大会4試合で5本塁打を放った4番・太田 舷暉を中心とした打線をウリにするチームだ。

 ともに攻撃力の高いチーム同士の一戦となり、どちらが打ち勝つのか。そこに焦点がおかれていたが、なかでも注目したいのが日大山形斎藤 堅史の好投だった。

◆得点圏に4度ランナーを背負うも驚異の粘り
 初回から斎藤は苦しい立ち上がりだった。米子東2番・藪本 鉄平にヒットを許すなど、二死満塁のピンチを迎えた。しかし6番・岡本 陽希を何とか打ち取ってピンチを脱する。

 2回から4回まではリズムよく抑えて3対0で試合を進めたが、5回以降は再びランナーを背負う時間が続く。特に3対0で迎えた5回は、8番・舩木 洸斗、9番・長尾 泰成の連続ヒットなどで一死一、三塁となった。だが、ここもマウンドの斎藤は冷静なマウンド捌きで後続を抑えた。

 その後、9回に連打を許して1点を失ったところで、2番手・滝口 琉偉にマウンドを託して降板した。惜しくも完封とはならなかったが、チームは4対1で勝利した。

◆150キロ超の速球がなくても全国で勝てる
 8回被安打12を許しながらもエースとして堂々たる投球だった。
 斎藤の真っすぐは130キロ台を計測する。今大会の注目投手である明桜風間 球打が157キロを計測するように、近年は140、150キロ台をマークする投手が増えてきた。その投手たちと比較してしまうと、決して驚くようなスピードではない。120キロ前後を計測するスライダー系の落ちる変化球も、鋭く変化するわけではない。

 かといって投球フォームも変則的ではなく、オーソドックスな右オーバースローに分類される投手といっていいだろう。終始、脱力した状態で、冷静に淡々とマウンドでボールを投げ込む。ピッチングというよりもキャッチボールをしているようにも見える投手だ。

 凄さが伝わりにくい投手かもしれないが、それを伝えないことが凄いのではないだろうか。

 事実、9回途中で降板して被安打12と強力打線・米子東に猛攻を受けたものの、与四死球は2つのみだ。

 公式記録上でもストライクが42球と、全体の38.18%のストライク率だった。ずば抜けた数字ではないが、ストライク先行で終始落ち着いた投球で、米子東を1点に抑えた。

 地方大会では力み過ぎてしまったことを斎藤は反省しており、その点に関しては「修正ができたと思います」と納得の投球だったようだ。その様子は米子東の舩木洸もキャッチャーとして見ていて、「動じることなく、淡々と投げている印象でした」とエースとしての振る舞いを高く評価していた。

[page_break:エースとして「完投して勝つ」ための投球]

◆エースとして「完投して勝つ」ための投球
 好投を見せた斎藤本人は、「エースである以上、1試合投げきらないといけないのが役割なので、目指していました」と完投するつもりでマウンドにいたとのこと。9回は疲労から連打を許してしまったことを反省していたが、自身の脱力した投球について聞くと、完投するためのペース配分だということがわかった。

 「自分は、先発がメインなので、多いイニングを投げないといけません。ですので、力いっぱい投げるとすぐに疲れてしまいます。だから、ピッチングでも変化球を混ぜながら、打ち取るところは打ち取るように心がけて投げています」

 エースとして先発して、9回を投げきって勝つ。このためのペース配分であり、抑えるために導き出した答えが、米子東相手に見せた「脱力投球」だった。

 荒木監督も先発起用に関しては、「先発は試合を作れる投手、ですから斎藤を先発にしました」と話しており、斎藤のゲームメイク能力を高く評価して起用していた。その点に関しては見事に応えるどころか、「思った以上に抑えてくれた」と指揮官も驚きものだった。

 投手として活躍するには、150キロ近くを計測する剛速球や、曲がりの鋭い変化球がなくとも、投球術があれば勝つことが出来る。それを証明した斎藤の投球だったと言える。

◆基礎ドリルが積み上げた12本のヒット
 敗れた米子東だが、日大山形・斎藤からヒットを12本積み上げた。

 全員があらかじめトップを大きく取って、バットを寝かせた状態で打席に立つ。そこから上手くボールの軌道に合わせて、上手くバットに乗せてはじき返していく。これは、米子東のなかにある、打撃の基本となるドリルによるものとのこと。

 これを経て、舩木洸は「全く打てなかった自分も、ドリルを3年間やってきたことで、打撃の基本を身につけることが出来ました」と成長を感じ取っていた。

 甲子園で放った12本のヒットは強打を武器としているチームとして、十分な結果を残したと言えるだろう。しかし、あと一本が遠く、試合を制することは出来なかった。

 主砲の太田は「自分たちの実力を引き延ばしてくれた3年生の分も、来年甲子園に戻ってこられるように、明日からまた練習をやっていきたいです」と誓った。

◆4元号での勝利は後輩たちへ
 開幕戦という独特な緊張がある中、両チームともに自分たちの武器を存分に発揮した一戦だった。米子東は敗れたものの、この戦いは後輩たちに語り継がれるはずだ。

 日大山形戦で「4元号勝利」とはならなかったが、この悔しさが打撃に磨きをかけ、次の甲子園でこそ、打力で全国のライバルを下し、「4元号勝利」を達成することを期待したい。

(取材=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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