U18監督経験の名将の教えを継承 メジャーリーガーも輩出した実力校・敬愛学園
清宮 幸太郎、安田 尚憲などをまとめ、高校日本代表の監督として2017年のW杯では3位入賞。また、日大三や拓大紅陵といった強豪校でチームを指揮した実績があることでも有名な小枝 守氏。2019年の1月に亡くなられたが、小枝氏のDNAを受け継ぎ、チームに活かしている学校が千葉県にあった。
恩師から受け継いだ人間力の大切さ
敬愛学園の実戦練習の模様
「(小枝先生には)野球や私生活を含めて、道徳的なことを教えてもらいました」
高校時代を拓大紅陵で過ごし、小枝さんとは選手と監督という間柄だった古橋 富洋氏。現在は千葉県の敬愛学園で監督として選手たちを指導する立場だ。
過去には日本のみならず、メジャーでも活躍した五十嵐 亮太さんをプロ野球界に輩出した手腕の持ち主。春は県大会1回戦で敗れたものの、夏の巻き返しに期待がかかる。そんな古橋監督が、恩師・小枝さんから受け継いだのは人間力だった。
「高校生くらいの年代だと、人への感謝など当たり前の言葉を素直に言える人は少ないです。しかし、自分の知らない場所で支えてくれている人は絶対にいるので、そういう人たちに気づいて、感謝の気持ちを伝えるのは大事だと選手たちには話しています。そうした行動がプレー1つ1つの精度や、力が比例して上がっていると実感しています」
敬愛学園の取材を通じて感じたことは、些細なことへの感謝の言葉。ノックが終われば選手たちが古橋監督のところに駆け寄り、「ありがとうございました」と一言。シート打撃ではミスをすれば仲間たちに「ごめん」と素直に謝る。
一見すれば当たり前のことかもしれないが、チームの主軸を担う太田 裕一「御礼の言葉や謝ることは常日頃から細かいところまで意識しています」と話せば、主将の林 龍之介も「誰よりも礼儀や感謝の気持ちを言葉にするように取り組んでいます」と語る。古橋監督を通じて小枝さんの教えが少しずつではあるが浸透していることがわかる。
ただ、小枝さんから教わったことは、人間力だけにはとどまらない。古橋監督が野球の技術、戦術面で選手たちに伝えるのは、積み重ねることだ。
「失敗をしても成功をしても、繰り返すことで道が出来ると。だから一歩の歩みを大切に、積極的にトライしていこうと。それが結果として選手たちの幅を広げることだと思うんです」
小枝野球を継承し、夏こそは躍進狙う
林 龍之介と太田 裕一
今年のチームは、先ほどの話がよく当てはまる。新チーム発足時はキャッチャーがいないなど、ポジションによって人数が少ない。また自粛期間の影響で体力的にも厳しく、攻守ともに技術的には未熟で、やるべきことは山ほどあった。
古橋監督も夏休み期間の様子をこのように振り返る。
「キャッチボールから、暴投や捕球ミスが多かったので、1つ1つの動作を説明して、それぞれの動作がどのように繋がっているのか。ノックでも打球の入り方や捕り方など教えていきました」
林主将、太田に話を聞いても、新チーム発足時は攻守ともに未完成だったと振り返ったが、秋季大会は地区予選では2試合を戦い、ともに1点差のゲームをモノにして何とか県大会へ。ただ県大会初戦・市原中央には1対5で敗退。敬愛学園の秋はここで終わってしまう。
しかし、この後の過ごし方がチームの成長速度を速めた。
「県大会から、千葉市内大会までの1か月でチームは大きく変わりました。この期間は基本を徹底的に繰り返しました。同じようなことをひたすら繰り返しましたが、それを選手たちそれぞれが身につけたことで、レベルが上がってきました」(古橋監督)
チームをまとめる林主将も「(県大会の敗戦をきっかけに)練習への意識や気持ちが変わったことは目に見えてわかった」と1つの敗戦をきっかけにチームが変わり始めていたことを実感。小さな一歩を積み重ね続け、少しずつではあるがチーム全体に力がついてきた敬愛学園。その成果が結実したのが、千葉市内のチームを対象にした千葉市内大会だった。
この大会には千葉明徳や千葉経済大付といった千葉県内でも実力校が参加する大会。この大会で敬愛学園が優勝を勝ち取ったのだ。この優勝は古橋監督にとって、非常に大きいものだったと振り返る。
「発足時は自滅してしまう展開が多かったですが、基本を徹底したおかげでミスが減り勝機が増え始めていました。ちょうどその時期に市内大会を迎えることができ、勝つことが出来ました」
この優勝を経験して「劣等意識が撤廃された」と古橋監督はコメント。実際に太田に話を聞いても「県大会が終わってから、『このままじゃダメだ』と思って意識を変えて全力でやってきたことでチームが成長した」と自信を掴むと、林主将も「千葉明徳や千葉敬愛に勝てたことは自信になりました」と自分たちが積み重ねてきたことに手ごたえを感じていた。
そんな選手たちを見て古橋監督も「意識が変われば行動が変わるというのは、こう言うことなんだと実感しています」と選手それぞれの変化を強く感じているという。
過去には大会でも上位に食い込んだことが何度もあるが、共通して「何かをきっかけに大きく人間的に変われば、結果に繋がることが多い」と古橋監督は振り返る。その観点で見れば、今年のチームは市内大会の優勝をきっかけに大きく成長を見せており、さらに伸びる可能性を秘めたチームといっていいだろう。
新チーム発足時に比べると、人間力は高まり、精神的にも成長してきたことを古橋監督は感じ取っている。それゆえに、あとは体力面などをきちんと鍛え上げ、守りを中心とした負けない野球を展開できるか。ここがポイントとなっている。
春季大会の流通経済大柏戦では、3エラーと鍛えてきた守備を発揮しきれず2対4で敗れた。ただ、市内大会で結果を残したことは、恩師・小枝さんの教えが間違っていなかったことを証明する結果といっていいだろう。夏こそは大きく成長した姿を見せることが出来るか。小枝野球を継承する敬愛学園の躍進を期待したい。
(取材=田中 裕毅)