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甲子園のヒーローは指導者の道へ。近田怜王さん(報徳学園出身)にとって高校野球とは人生そのものだった vol.4

2020.09.18

 兵庫が誇る全国区の名門校・報徳学園。「逆転の報徳」の異名で高校野球ファンに親しまれ、広島の若手注目株・小園海斗岸田行倫といった現役選手、引退された選手まで見ていくと金村義明氏や清水直行氏など多くのスター選手を輩出した。その中の1人が福岡ソフトバンク、JR西日本でプレーをされた近田怜王さんだ。

 高校時代は最速145キロを投げ込む本格派左腕として世代を代表する投手として、2008年の夏の甲子園でベスト8進出に大きく貢献。プロからも高い注目を浴びてきた近田さんだが、イップスと向き合った道のりに迫る。

 最終回となるvol.4はプロ野球生活や社会人野球での日々。そして現役引退の瞬間から現在までを見ていきます。

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最速137キロを計測するスーパー中学生だった近田怜王さん(報徳学園出身)の野球人生の始まり vol.1
忘れることはない甲子園での2度の敗戦。近田怜王(報徳学園出身)のプレッシャーとの戦い vol.2

一度は諦めた野球。母の支えと恩師の激励で掴んだ夏の聖地 近田怜王さん(報徳学園出身)vol.3

レベルの高さを痛感したプロの世界

甲子園のヒーローは指導者の道へ。近田怜王さん(報徳学園出身)にとって高校野球とは人生そのものだった vol.4 | 高校野球ドットコム
仕事場での近田玲王さん ※写真=本人提供

 そしてプロの世界へ飛び込んだ近田さん。1軍の舞台を目指して練習を重ねるが、なかなか1軍でプレーができず。2軍での生活が続いた。
 「全然レベルが違いました。自分の中でもプロになることが夢で、実現できたことに満足していたんです。そこから先の意識で違いが出ました」

 プロの世界でどこまで成長したいか。その目標が曖昧になってしまった近田さん。日々の練習は懸命に取り組んでいたものの、「中途半端だったと思います」と少し残念そうに当時を振り返る。

 ケガにも苦しむなど紆余曲折がありプロ4年目となった2012年、近田さんは大きな決断をする。小学4年生から始めた投手から野手へ転向を決意する。打者転向は簡単なことではないが、この決定には近田さんなりの考えがある。

 「プロの世界にいると何となく戦力外になるか否かがわかってくるのですが、4年目の時に『いずれは指導者になりたい』と高校の時から考えていたので、野手の経験も出来ればと考えまして、球団に相談したんです」

 球団側も近田さんの打撃にチャンスがあると考え、野手転向を許可。プロ生活の残りの期間は野手として過ごすこととなる。
 「球団のスタッフや選手には申し訳なかったですが、レベルが違いました。ですが、いろんなことを吸収して経験することができました」

 そして近田さんは2012年のオフにプロ野球を引退となるが、翌年の2013年からはJR西日本からの誘いを受けて社会人野球の世界へ。プロ時代の経験を活かして中継ぎとして活躍。午前中は仕事をしながら、午後から練習をする社会人ならではの環境でプレーを続行した。

 この環境を「社会人と野球人のバランスが取れていて、新鮮な環境でした」と振り返ったが、近田さんは2015年に現役を引退することを決意するのであった。

[page_break:人生、人を変えた甲子園であり高校野球だった]

人生、人を変えた甲子園であり高校野球だった

甲子園のヒーローは指導者の道へ。近田怜王さん(報徳学園出身)にとって高校野球とは人生そのものだった vol.4 | 高校野球ドットコム
終始笑顔で印象的だった近田玲王さん

 第一線から退く決意を固めた近田さん。その理由はこんな想いからだった。
 「ドラフトにかかるかもしれない若い選手がいて、そういった選手に登板機会を少しでも増やせるようにと考えたんです。中継ぎの経験が少ない選手が多く、僕が出場枠を使っていましたが、将来のある選手を優先してほしいと思い、監督に話をして、引退をしました」

 先のある選手に譲ることを優先して近田さんは引退。小学3年生から続けてきた野球と別れたが、「プロ野球選手の夢も叶えたので、清々しく引退しました」と納得の表情を浮かべる。

 現在はJR西日本の社員として、車掌の仕事に勤めており、ドアの開閉。さらには車内アナウンスなどをしている。その傍ら、2015年からは京都大学の野球部のコーチとして野球界に戻り、選手の育成に尽力。2020年の秋からは助監督してベンチに入ることも決まった。

 選手から指導者と立場は変わったが、これからも野球に携わっていく近田さん。そんな近田さんにとって3度足を踏み入れた甲子園はどんな場所だったのか。
 「自分を大きく成長させた場所と言いますか、報徳学園の看板を背負いながらも人を作ってもらえた場所。人生を変えた場所だと思います」

 スーパー中学生として高校野球界に飛び込み、熱中症やイップスなど多くの挫折を経験するも、最後の夏は甲子園8強と報徳学園の3年間で様々なことを経験した近田さん。そんな近田さんにとって高校野球とは何だったのか。その答えは明確だった。

 「自分に人生を変えた、作った3年間だったと思います。この経験をできたからこそ今があります。高校野球を通じて苦しいこともたくさん経験しましたが、3回も甲子園を経験できて楽しいことも経験できました」

 現在、コーチをされている京都大で今秋のリーグ戦から助監督としてベンチに入ることとなった近田さん。最後に球児たちにメッセージを残してくれた。

 「3年間、人が味わえない苦労を乗り越えた時に今後の人生に生きていくと信じているので、今は苦しくても夢を大きくもって自分の人生にプラスになるように考えて、いいものにしてほしいです」

 終始取材中は笑顔が絶えなかった近田さん。しかしそれは熱中症、イップスと人以上に苦しい経験を乗り越えられたからこそ表れる屈託のない笑顔なのだ。甲子園のヒーローは指導者となって野球界に携わりながら、新たなスターを育てていく。

(取材=田中裕毅)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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