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高校野球を終えたキミたちへ 恩師からの手紙 ~日本文理キャプテン・平野貴史~

2020.08.15

高校野球を終えたキミたちへ  恩師からの手紙 ~日本文理キャプテン・平野貴史~ | 高校野球ドットコム
高校野球引退後に、中学時代の恩師・岩船監督と平野選手との再会2ショット

 5月20日、甲子園の中止が発表された日。
平野貴史は、その夜、中学時代の監督にこれまでの感謝の気持ちを記したメッセージをLINEで送った。

「こんばんは。今日、甲子園大会の中止が決まり、まだ心の整理は完全には出来ていません。ですが、もう決まったことに変わりはないので、これからまた今できることをやりきりたいと思います。甲子園とはまた違った濃い夏にしたいと思います」

上越市立春日中時代の恩師・岩舩尚貴監督(現上越教育大附属中)へ送ったこのメッセージは、「次に進むための決意」だったと平野は言った。

 小学生の時から、地元新潟の強豪・日本文理の甲子園での活躍をみてきて、ずっと憧れのチームだった。
 自分もここで野球がやりたい!と、中学を卒業後、日本文理高校に入学。2年生の夏にチームは甲子園に出場したが、平野は甲子園には帯同はせず、居残りのメンバー79人をまとめるために、自ら新潟に残ったというほど、キャプテンシーのある男だった。

 しかし、新チーム結成後の秋の大会では、初戦で敗退。
「自分たちならできるという気持ちがどこかにあって、それが過信につながった結果でした」と平野は秋を振り返る。
 夏は、もう一度、甲子園へ。そして、自分たちの代で今度は全国優勝を。
そんな思いでキャプテンとして、チームをまとめてきた平野だったが、あの日、甲子園の夢は絶たれた。

 

「甲子園を目指して日本文理に入学して、ここまで頑張ってきましたが、それがなくなったのは、僕の人生においても大きな出来事でした。だけど、鈴木監督や高野連の方々が、僕たちのために、代替大会の準備もしてくださり、最後はその大会で優勝したいという目標に切り替えて、またグラウンドに戻ってきました。
 自分はキャプテンとして、堂々とチームを鼓舞していくことで勝ちにつながっていくと思うので、仲間とともに最後まで戦っていきたいです」

 そう大会開幕前に話してくれた平野。
7月18日に開幕した新潟県高校夏季野球大会では、日本文理は決勝まで順調に勝ち上がるも、最後は中越に3対9で逆転負けを喫し、準優勝に終わった。
 決勝戦で、平野は6回に代打で出場するも三振に倒れたが、最後まで気迫をみせた。
そんな平野を最後までずっと応援してきた中学時代の恩師・岩舩監督は、高校野球を終えた平野にこう手紙を寄せた。

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野球とともに歩んだ人生

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高校入学時の2ショット/中学時代の平野選手

~貴史へ~

貴史と出会ったのは君が小学生の時でしたね。ユニフォーム姿で一生懸命にお兄ちゃんの応援をする姿が目に焼きついています。

中学時代は下級生の頃からチームの中心選手であり、精神的支柱として大車輪の活躍。野球部の歴史を塗り替えるだけでなく、学校の雰囲気をも変える「みんなの」リーダーでした。

テレビの中で見た「つなぐ文理野球」に憧れ、夢だった日本文理のユニフォームに袖を通した高校野球。甲子園を目指して親元を離れての寮生活。ケガもあり、メンバーに入れず悔しい思いもして、決して順風満帆ではなかったのはよく知っています。
キャプテンに任命されてからの苦しみや葛藤もあったことでしょう。しかし「つなぐ文理野球で全国制覇」。これを達成するために覚悟を決めて邁進する姿は鬼気迫るものでした。
そんな君に甲子園大会中止の発表はどれだけ辛かったのでしょう。私はかける言葉がありませんでした。しかし、君から届いたLINEの言葉「文理のキャプテンとして前を向く姿を見せたい。甲子園よりも濃い夏にします。」この言葉に君の底力と新たな覚悟を感じました。
メディアを通して見る君は「感謝」「仲間」「野球ができる喜び」という言葉を常に口にしていました。その姿は県内外の小中高生に大きな希望と前を向く力を与えていたように思います。

「3年間のすべてをぶつけて最高に野球を楽しみます!」とメッセージをくれて臨んだ新潟県独自大会。
憧れのユニフォームを着て、「つなぐ文理野球」の中心にいる姿は、ひたむきで爽やかで誇らしく私の目に映りました。決勝戦の後、「つなぐ文理野球はここで終わらない。今回のことで学んだ経験、そしてグッドゲームの精神をこれからの人生で『つなげて』いこう」とチームメイトや後輩に伝えたと聞きました。
コロナ禍の中、夢が絶たれた君は、想いを「つなぐこと」「つなげること」を自分の使命にしたのではないかと思っています。「人」と「想い」を何よりも大切にする昔から変わらない貴史らしさを感じました。
君が常々口にしていたように「高校野球の目的は人間形成」だと私も思います。最高の指導者、最高の仲間、最高の環境の中で人間を磨き上げてきた平野貴史。「つなぐ文理野球」をこれからの人生で体現してください。
これからもずっと応援しています。

岩舩尚貴

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日本文理では捕手としてプレーした平野貴史

 岩舩監督にとっても、思い入れのある選手の一人だった平野。
「私の大学時代の先輩が、日本文理の鈴木崇監督なのですが、その崇さんのもとで平野もたくさんのことを学ばせていただいたと思います。
 高校に入ってからは、『一年生の時はどんなに監督に怒られても逃げずに監督の横にい続けろ』と伝えてきました。もともとリーダーとしての素質もある選手でしたが、崇さんに鍛えていただき、人間としても大きく成長したいと思います。素晴らしい選手でした」

平野は大会前、中学時代の恩師・岩舩監督についても、日本文理の鈴木監督についても、「今までも、これからも尊敬する監督方です」と嬉しそうに話していた。
 最後の夏、岩舩監督と約束した鈴木監督の胴上げは叶わなかったが、平野の野球選手としての夢はまだ終わったわけではない。このあとは大学でも野球を続ける予定だ。
 平野らしく、持ち前のリーダーシップを生かして、これからも自分を支えてくれた人々を笑顔にするようなプレーを届けていきたい。 

(文=安田未由

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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