「自分の中では打倒・健大高崎、打倒・前橋育英とずっと考えていました。そこを倒さないと甲子園は絶対無理だと思っていたので」
今秋のドラフト候補にも名前が挙がる、桐生第一の速球派右腕・蓼原慎仁は力のこもった口調でそう語った。
近年は、健大高崎と前橋育英の「2強」を前に桐生第一は後塵を拝していたが、昨年は秋季群馬大会を13年ぶりに制して、秋季関東大会でもベスト4に進出。「2強時代」の終止符を強く印象づけた。
選抜甲子園の中止を経て、チームは今どんな心境で夏に向かっているのだろうか。
秋の躍進を生んだ徹底力
プロ注目の144キロ右腕・蓼原慎仁
「正直、今年はちょっと厳しいなと思っていました。攻撃では機動力を使っていきたいなと思っていましたが、なかなかハマらず厳しい船出でしたね」
昨秋は大きく躍進した桐生第一だが、新チーム結成当初は勝ち進むイメージはなかなか持てなかったと振り返る今泉壮介監督。力のある選手も少なく、チームとしても徹底力を欠いており、右腕の蓼原も秋季大会の序盤は苦戦が続いたと明かす。
「秋季大会が始まった時は、本当に力が無くて勝てないチームでした。監督からは、徹底することの大切さを言われ続けて、とても苦しい時期でした」
徹底すること。
夏から秋にかけて、今泉監督が何度も言い続けてきた言葉だ。
例え個々の能力が劣っていても、一人一人が自分の役割を徹底することでチームとして大きな力を発揮することができる。そのことを選手たちが理解できれば、必ず勝ち進んでいけると今泉監督は信じていた。
提携するジムでTRXを行う選手たち
「個々の能力はなかったのですが、逆に能力を活かして形にとらわれず選手に合った作戦でいこうと考えました。そこをしっかりと選手も理解でき始めたことが、勝ち進むことができた要因かなと思っています」
今泉監督の指導を受けて、主将の廣瀬智也も徹底力の向上をチームメイトに呼びかけ続けた。
「一人一人の役割、例えばバントする選手はバントする、チャンスでランナーを還す役割の選手はしっかり返す、そういった一人一人の役割をしっかり徹底してやっていこうと自分もみんなに言い続けました。
言われたことを徹底することができたことが、秋に勝てた一番の要因だったと思います」
元々、投手陣は速球派の蓼原、技巧派左腕の宮下宝と力のある投手が2枚いた。
打線が機能し始めたことで投打が噛み合うようになり、徐々にチームの状態は徐々に上がっていった。
迎えた決勝では、県内で夏4連覇を果たしていた前橋育英を4対1で下して、13年ぶりに秋季群馬県大会を優勝。秋季関東大会でもベスト4に進出して、「徹底できるチーム」を見事体現してみせたのだった。
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交流試合の話を聞いて鳥肌が止まらなかった
主将の廣瀬智也(桐生第一)
「ピッチャーが投げた球は見ていなかったので、動体視力の面は落ちたかもしれませんが、体力面に関しては落ちてないなと思います。技術的な面も少し落ちたかなと思いますが、全体的にはみんな動けていると思います」
6月に練習を再開した桐生第一。廣瀬は、チームメイトの動きに一定の手応えを感じている。
2016年以来、4年ぶりの選抜甲子園を掴んだ桐生第一だったが、周知の通り大会は中止となり、そして夏の選手権大会も中止に。
一時は、選手たちのモチベーションはどん底まで落ちたが、甲子園での交流試合が決まったことで再び士気を取り戻したと廣瀬は明かす。
「ちょうど帰ってくる時に夏の大会も中止が決まり、みんなを切り替させることは難しいかなと思っていたのですが、校長先生から交流試合の話を聞いてみんな『よっしゃー』という感じで。僕自身も鳥肌が止まらなくて、これからしっかりやらなくちゃいけないなと感じましたね」
提携するジムでトレーニングを行う選手たち
また同時に群馬県独自の大会も開催されることが決まった。廣瀬や蓼原は、この県独自の大会を「アピールのチャンス」と捉えてる。
蓼原は現在高卒でのプロ入りを目指しており、また廣瀬も大学進学の予定だが最終的な目標はプロ入りに定める。
蓼原が「自分にはアピールの場ができたと思っているので、プロのスカウトの目にも止まるようなボールを投げたいです」と話せば、廣瀬も「見ている人が、おぉっとなるようなバッティングをしたいなと思っています」と口にし、自らの目標を叶えるためにも大きな意味を持つ大会となる。
近年は、健大高崎と前橋育英の「2強」の存在感が際立つが、夏の戦い方次第では再び勢力図を塗り替える契機となるだろう。
春夏合わせて15度(第92回選抜大会含む)の甲子園出場実績を誇る名門が、この夏、強豪の矜持を取り戻せるか注目だ。
(記事=栗崎祐太朗)
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