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「冬の野球自由研究」春・そして夏の開花へ 県立城東(徳島)

2020.01.23

 2019年、秋季徳島県大会で3位に入り、初出場となった秋季四国大会でも最速147キロ右腕・内田 悠太(2年)擁する大手前高松(香川)を破り1勝をあげた徳島県立徳島城東高等学校。県内トップの公立進学校。加えて平日は20時完全下校にもかかわらず一昨年は練習試合とはいえセンバツベスト8の日本航空石川(石川)を阿南市での直前合宿練習試合で下し、昨年は夏の選手権徳島大会でも第4シードを獲得するなど近年の躍進はめざましいものがある。

 では、なぜ徳島城東はこのような強さを発揮できているのか?今回はその原動力であり、選手18人・マネージャー2人の計20名が日々作り上げている「冬の野球自由研究」を追ってみた。

平日3時間足らず、1/4グラウンドでもできる「野球研究」

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ラグビー部の横で3人1組でのキャッチボールをする城東の選手たち

 横を見れば先の全国高校ラグビー選手権で「笑わない男」プロップ稲垣 啓太(パナソニックワイルドナイツ)をOBに持つ新潟工を撃破したラグビー部がスクラムやラインアウトを組む。奥を見ればサッカーボール・ソフトボールにハンドボールが飛び交う。そして19時半を過ぎると「20時で完全下校です」と校内放送が……。これがこの数年で徳島県で常に上位争いを演じるようになった徳島城東野球部の平日練習風景である。

 加えて平日の練習時間は長くて2時間半。グラウンドは1/4スペース。休日こそ学校から約3㎞北側になる吉野川大橋南岸のグラウンドを使用できるものの、ここにもナイター設備は皆無である。古くは作家の瀬戸内 寂聴さん、近年でも東京大工学部卒で全国各地で光のデジタルアートを展開しているチームラボ・猪子 寿之代表取締役らを輩出。毎年国公立大・有名私大にも100名以上を送り込んでいる県内トップ進学校の宿命とはいえ、いわゆる「強豪校」の環境は全く満たしていない。

 しかしながら、「この環境で勝つためにどうするのかをテーマにしている」と鎌田 啓幸監督が話すように、2年生選手5名・1年生選手13名・2年生マネージャー2名の計20名で構成されるチームに悲壮感は皆無である。

 取材日の練習1つ見ても、選手たちはアップから昨秋公式戦7試合28盗塁の原動力となった走塁の「6種類スタート」を確認。キャッチボールでは3人1組になり実戦を想定した送球を繰り返し、守備練習では二遊間が「試合をイメージして足で合わせる」(森本 夢叶<2年・二塁手>)捕球からトス・送球までの動作を確認すれば、外野陣は手投げフライを様々なスタートから捕球。

 一方、打撃練習ではミートを確かめるべく竹バットを使いティーバッティングに取り組めば、最速137キロ右腕・髙木 太陽(1年)をはじめとすつ投手陣は鳥かごを使ってのブルペン投球。それが終わると鳥かごすぐにマシンバッティングの場所と化す。このような練習が3班構成で次々と進んでいく。

 さらに練習の合間には選手間で練習ポイントを確認しあい、練習後には鎌田 真依・桑原 実夢の2年生マネージャーが作ったおにぎりを食す。指揮官いわく「ウチは野球研究部」と徳島城東野球部を評する理由がこれだけでも理解できた。

 そういった彼らの「自由研究発表会」となったのが昨年秋の公式戦であった。

[page_break:過去に「探究」加え、成果残した2019年秋/歴史を知り、積み上げ、新たな歴史を創る]

過去に「探究」加え、成果残した2019年秋

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センバツ21世紀枠四国地区候補選出表彰式でガッツポーズする城東1・2年生部員全20名

 そもそも徳島城東の「大物食い」には以前から定評があった。2018年3月には練習試合とはいえ、後にセンバツベスト8に入った日本航空石川(石川)を撃破し夏の徳島大会は第4シードを獲得。2019年も最速142キロ右腕・井村 多朗(3年)を軸に安定した実力を発揮していた。

 そこに昨秋加えたのが「旧チームに比べて力がないので思い切って戦える」(鎌田監督)を最大限活かした「探究」である。走塁を中心に練習試合で試したデータを分析し、戦術的な落とし込みを徹底。鎌田監督も昨夏甲子園1勝・鳴門との県大会準々決勝前には「コールドにするくらいの勢いで行くぞ!」とあえて進撃ラッパを鳴らし、4回までに8得点で8対3と勝利。勢いを引き出した。

 そして四国大会前には初戦・大手前高松の映像を取り寄せ、詳細な研究に着手。加えて直前の結果を踏まえての対応力も功を奏した。最速147キロ右腕・内田 悠太に対し勝利を大きく引き寄せる中越適時二塁打を放った山口 純平(1年・三塁手)は快打を導いた思考回路をこう振り返る。

「前の打席で自分のスイングが詰まっていたのが解ったので、ポイントをボール2個分前に置いてスイングしたんです。差し込まれてはいたんですが、思ったより飛んでくれました」

 連戦となった準々決勝・高知中央戦では中盤に相手打線の打力に屈したが、この試合でも大手前高松戦に続き4盗塁。爪あとはしっかりと残した。

歴史を知り、積み上げ、新たな歴史を創る

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鎌田 啓幸監督の話を聴く城東の選手たち

 このような「研究を試合に活かす」サイクルで初のセンバツ21世紀枠四国地区候補校の座をつかんだ徳島城東。しかしその表彰式があった昨年12月19日の練習後、あえて鎌田監督は部員全員を前にこんな内容の話をした。

 「この野球部ができたのは1995年に軟式野球部しかなかったころ、先輩の1人が学校に働きかけて(1996年に正式創部)できた。そのことには感謝の気持ちをもたなければいけないし、その感謝は浅いものではいけない」。その前には真剣な表情でうなずく20人がいた。

 先輩たちの積み上げた歴史の上にある今。となれば彼らの目指すものは決してここではない。直後、エースの髙木も経験をなぞらえて課題を列挙した。
 「(秋季四国大会準々決勝)高知中央戦は全力で投げたストレートでも空振りが取れなかった。レベルを知れて課題も見つけることができた。だからこの冬は身体も大きくしなければいけないし、球速もボールのキレも上げないといけないと思っています」

 そして「基本から忠実にやっていく」(主将・西田)先に見据えるものはもちろん「全国で勝つチーム」。1月24日・センバツ選考の結果がいかなるものになろうとも、城東は冬の自由研究を春・夏に成就させる過程を積み上げ、新たな歴史を創り上げていく。

(文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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