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劇的な勝利に沸いた2試合 鹿児島ベストゲーム2019

2019.12.27

第101回全国高校野球選手権鹿児島大会準々決勝 【神村学園4対3大島】

劇的な勝利に沸いた2試合 鹿児島ベストゲーム2019 | 高校野球ドットコム
神村学園

 今年の夏の趨勢を決めた試合といっても過言ではない。この夏の優勝候補の大本命と目され、4回戦まで危なげなく勝ち進んだ神村学園が初めてにして最大の試練を迎えた一戦だった。

 この大会、ノーシードから接戦を勝ち抜いた鹿児島大島が5回まで押し気味に試合を進め、5回表、一死満塁のチャンスで4番・今里武之介(3年)が初球を弾き返し、走者一掃のライトオーバー三塁打で3点を先取した。

 エース赤崎太優主将(3年)は8回まで神村学園打線を散発3安打、三塁を踏ませない好投。8回裏二死一塁で神村学園のリードオフマン・森口修矢(3年)がボール球を空振り三振した時は、シード神村学園といえども焦りがあり、追い詰められているのを感じた。
 気は早いが鹿児島大島初の夏の甲子園があるかもしれないと思った。

 残す回は9回裏1イニングのみ。点差は3点。ワンチャンスで逆転できる点差だが、この日の赤崎の出来からすれば、挽回は難しいと思われた。だが赤崎は「応援に応えるためにも勝たなければと意識して、腕が思い切り振れなくなった」と言う。

 赤崎が「勝ち」を意識した投球になったことを神村学園打線は見逃さなかった。

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大島

 先頭の2番・田本涼(3年)がレフト前ヒット、3番・古川朋樹(2年)がライト前ヒットで出塁し、4番・桑原秀侍(2年)が死球で満塁とする。この試合で初めて連打が生まれ、2人以上の走者を出した。

 「表の攻撃でピッチャーが最後の打者で、追加点が取れず、凡打で走った後だったので、投げやすい状況ではないだろうと思った」と田本は冷静に相手投手の状況を読み、口火を切った。

 徳之島出身の5番・田中大陸(2年)が追い込まれながらも粘ってレフト前に弾き返して2点を返し、瞬く間に1点差に詰め寄る。6番・松尾駿助(3年)が送りバントを決め二三塁とし、5回に失点につながるエラーをした7番・田中天馬(3年)が見事センター前に弾き返し、鮮やかな逆転サヨナラ勝ちで試練を乗り越えた。

 トーナメント戦を勝ち抜いて頂点を極めようと思えば6、7試合を勝ち抜かなければならない。どんなに力のあるチームでも、全試合を自分たちで主導権を握るのは難しく、どこかで相手に主導権を握られる試合がある。その試合をものにできるかどうかが、頂点を極めるチームの分かれ目になる。

 この夏の神村学園にとって、「分かれ目」になったのは間違いなくこの試合だった。

[page_break: 第145回九州地区高校野球鹿児島県予選準々決勝 【枕崎8対7樟南(延長14回)】]

第145回九州地区高校野球鹿児島県予選準々決勝 【枕崎8対7樟南(延長14回)】

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枕崎

 実に3時間25分の長丁場の死闘を両者繰り広げた。準々決勝ではあるが、新チームの試合らしく、お互いにミスが続いて勝利への流れをつかみきれない我慢比べの試合だった。

 「本当にへたくそな連中。2試合分ぐらいのミスがあった」と試合後に開口一番、枕崎・小薗健一監督が苦笑した。

 2回裏に打者10人で4失点を喫した。5回表は反撃の2点を返したところで三塁けん制アウトだった。7回表は2点差に追いついたところで一走が三塁オーバーランタッチアウト。

 延長11回表、ようやく勝ち越しのチャンスにスクイズ失敗。守備でも失点に絡むエラーが度々あった。どれをとっても敗因につながりかねないミスのオンパレードだった。

 それでも勝利をものにできた大きな要因はエース前野天星(2年)が粘り強く、強い気持ちで最後まで投げ抜いたことだ。140キロの剛球も、目の覚めるような切れ味の変化球を持っているわけではない。
 彼の武器は「残塁」と小薗監督。どれだけ打たれて走者を出し、ピンチを招いても、最後は抑えて切り抜けるところにある。

 この一戦はまさに前野の真骨頂のような投球を14回まで繰り広げた。14回表の決勝タイムリーをその前野が放つというのも、野球の神様の粋な計らいに思えた。

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樟南

 この試合で前野が投じた球数は199球。1回戦から準決勝まで5試合を前野は1人で投げ抜いた。5試合で632球。10月3日の3回戦から5日の準々決勝、7日の準決勝までの5日間、3試合で414球を投げている。

 来春から導入が検討されている「1週間500球以下」の規定に当てはめるなら、仮に準決勝を勝って8日の決勝に進んでいれば、86球しか投げられないことになる。準決勝の105球は7回コールド負けでのものなので、9回まで投げ抜けば、球数はもっと増える可能性が高く、決勝で投げられる球数は少なくなる。しかも準決勝、決勝は連戦である。

 こうやって実際の大会に当てはめてみると、球数制限が設けられたときに1人のエースで勝ち上がってきた枕崎のようなチームにとっては不利な条件になることが分かる。
 決勝に勝ち進んだ鹿児島実は右の加島優太(2年)、左の森重温季(2年)の左右2枚、鹿児島城西八方悠介(2年)、前野将輝(2年)の右腕2枚と2本柱をうまく使い分けていた。

 球数制限は戦力をそろえやすい強豪私学が有利で、集まった選手でやる公立が不利。一概にそういえるものではないが、大会日程の組み方が現状のままなら、大会終盤、九州大会や甲子園がかかる準決勝、決勝と大事な試合になればなるほど、投手の駒を多くそろえたチームが優位になるのは間違いないだろう。

 球数制限の導入は間違いなく、チーム作りをも含めた野球の在り方を根底から変えるものになる。そんなことまで考えさせられた一戦だった。

(文=政 純一郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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