2019年の神宮大会の主役に躍り出た怪腕・高橋宏斗(中京大中京)。覚醒をもたらした「千賀流フォーム」
11月17日、明治神宮大会準々決勝の中京大中京vs明徳義塾の一戦は中京大中京がコールド勝ちを収め、準決勝進出を決めた。今回は7回を投げ、10奪三振、無失点の快投を見せた中京大中京のエース・高橋宏斗をピックアップしたい。
明徳義塾の名将も絶賛する高橋宏斗
高橋宏斗(中京大中京)
今年の2019年の明治神宮大会の主役に躍り出たといっていいだろう。それだけ高橋宏斗のピッチングは衝撃的だった。
まず注目の立ち上がり。いきなり1番・奥野に146キロのストレートを打たれ、レフトの頭を超える二塁打を打たれてしまう。
しかしここから高橋は冷静だった。
「いつも力が入ってしまうんですけど、まずは1点を取られてもいいので、バックを信じて投げました」
一死三塁から3番・鈴木を空振り三振に打ち取り、4番元屋敷を三ゴロに打ち取り、ピンチを切り抜ける。
そして2回以降はストレートの割合を減らし、フォーク気味に落ちるツーシーム、カットボール、スライダーを投げ分け、巧打者揃いの明徳義塾打線から三振の山を築く。
高橋と対戦した明徳義塾の打者は賛辞のコメントだ。
「今まで対戦した投手の中でも一段階レベルが違う投手でした。高知には森木(大智)くんがいますが、森木君よりもコントロールが良いので、打てないです」(明徳義塾・3番鈴木)
「速かったですし、ボールの伸びが素晴らしかったです」(明徳義塾・1番奥野)
「打席に立ってみてすべてがすごかったです。投手として高橋さんのような投手になりたいと思いました」(明徳義塾の先発・代木大和)
そして馬淵史郎監督からも大絶賛の言葉だ。
「ストレートは高校時代の松坂(大輔)は上」という言葉には報道陣も驚かせたが、そのあとの高橋評が的確だった。
「今年1年、今までいろいろな投手と対戦してきましたが、一段階上でした。速球投手を攻略するにはシュート回転して真ん中に入るボールを叩くことが鉄則ですが、今日の高橋投手にはそれがなかった。本当に凄い投手だと思います」
つまり攻略のしようがなかったということだ。明徳義塾はこの夏、森木大智(高知)、智辯和歌山投手陣と対戦したり、この秋の四国大会では全4試合で8得点以上を奪い、星稜も好投手・荻原吟哉を攻略するなど8得点を奪っている強力打線であり、攻略法の引き出しはどのチームよりも広い。そんな打線から4安打無失点に抑えた高橋のすごみが伝わってくるはずだ。
快投を持たらした千賀流フォームと微調整の上手さ
さて馬淵監督が話した高橋はストレートがシュート回転しないと話していたが、正確にはシュート回転をしている。中京大中京バッテリーがしたたかなのは、シュート回転するストレートを武器にしていることだ。その意図について高橋はこう説明する。
「自分はそのストレートをマイナスに捉えるのではなく、プラスに捉えようと思いました」
そのため配球を工夫した。ストレートは右打者には内角を投げ込んで懐を抉り、左打者には外角に投げて逃げる軌道となる。そのため左打者の外角へ投げて三振を奪う場面もあった。
変化球の精度も秀逸だ。明徳義塾の打者から多くの空振りを奪ったツーシーム。実は挟んで投げているという。つまり山崎康晃(横浜DeNA)と同じ原理だ。
こうして多くの人々から絶賛されるピッチングを見せた高橋。そこにいたるまで確固たる投球フォームのチェックポイントがある。高橋のピッチングフォームを見ると、千賀滉大のように左足を上げた時に三塁方向を見る。これはフォームのバランスを整えるためだ。
「僕は投げ終わった時に一塁側に倒れて、バランスを崩すことがありました。原因を考えたら、ずっと本塁方向を見ていて、身体が本塁方向に倒れてしまっていました。秋季県大会からこの取り組みを始めたらバランスが良くなりました」
しかしずっと快投を見せたわけではない。秋季東海大会準決勝の藤枝明誠戦では5失点完投、決勝の県立岐阜商戦ではリリーフしたものの4失点。東海大会の防御率は4点台となっていた。そこからどう修正したのか?
「あの2試合は全く自分の思い通りのボールを投げることができなかったと思います。フォームのバランスが崩れていて、一塁側に倒れるフォームになっていたので左足をしっかりと上げて、バランス良く投げられるよう、2週間でしっかりと調整してきました」
そのフォーム修正の効果もあり、正捕手・印出太一の要求である「明徳義塾打線は甘い球を逃さないので、徹底的に低めに投げる」こともできたのである。
155キロを狙う意味
そんな高橋の最終目標は「世代ナンバーワンピッチャー」だ。そのためには「155キロ」を投げたいと思っている。
「最終的には常時148キロ~150キロを投げ、マックス155キロを投げられるようになりたいです。150キロだと投げられる投手はいるかもしれませんが、155キロはなかなか到達できない領域。だからその数字を目指しているんです」
熱く語る高橋の姿には意思の強さを感じさせてくれた。
これで一躍、2019年の明治神宮大会の主役となった高橋宏斗。本人、チームが新チーム時からめざしてきた「明治神宮大会初優勝」を成し遂げることができるか、注目である。
(記事=河嶋 宗一)