強豪校をはねのけ創部初の準優勝・丹生(福井) 快進撃の種火【前編】
今夏の福井大会で広島からドラフト6位指名された玉村昇悟を擁して創部初の準優勝という快挙を成し遂げた丹生。公立校が次々と強豪校を倒していく姿は多くの人にインパクトを与えた。
秋は初戦で敗れたが、力のある選手は残っており、上位進出のチャンスは十分にある。福井の高校野球を盛り上げた丹生のこの1年間の軌跡と同校の取り組みについて迫った。
勝負に対しての厳しさや甘さを感じたのが始まり
丹生野球部の選手たち
福井県丹生郡越前町にある丹生高校はホッケーの強豪校として知られている。この日はあいにくの雨模様で練習はグラウンドではなく校舎周辺や武道場で行われた。
授業を終えて続々と選手たちが集まってくる。選手たちの頭髪は丸刈りではない。何人か3年生が交じっているのかと思いきや、3年生で練習に合流しているのは玉村だけ。どうやらこの代から髪を伸ばすことを春木竜一監督が推奨したようだ。
「玉村の代の時にも一回、『伸ばしていいよ』と言ったんですけど、あの子らが『こっち(丸刈り)の方が楽です』と言ってきたんです。でも、楽だからというのはおかしいなということで、生え揃った段階で選ばせようと。学校の中でも誰が野球部かわからないです」
近年では旭川大高や花巻東といった強豪が脱丸刈りを採用している。近年の野球人口の減少に危機感を感じている春木監督は代替わりを機に改革を実行した。
この夏は玉村の活躍で大躍進を遂げた丹生だったが、玉村の1学年上にも力のある選手たちが揃っていた。春木監督は優勝を目指していたが、1回戦でまさかの敗退。悔しさを味わったところから昨夏に新チームがスタートした。
「勝負に対しての厳しさや自分たちの甘さを感じたのが始まりなんですよね。そこからこの子たちの意識が変わりました」と話す春木監督。勝つことの難しさを知ったことで、より選手たちの意識は高まった。
エースで主将の玉村を中心に福井の頂点を狙ったが、秋は準々決勝で福井工大福井、春は2回戦で敦賀気比にそれぞれ完敗。強豪校の壁に跳ね返された。
[page_break:大エースが抜けても期待が持てる新チーム]大エースが抜けても期待が持てる新チーム
新エースの伊藤秀太郎
悔しい経験をしたが、「そういう思いがあった分、最後にあのような成績に繋がったと思います」(春木監督)と夏に奮起するきっかけを作ることはできた。
春までは玉村に依存する傾向があり、打線が援護できずに敗れることが多かった。どれだけ良い投手がいても点を取らなければ勝つことはできない。チーム内でもこのままではいけないと自覚するようになり、勝つためには3点取ることは必要だと認識するようになった。「3点取るためにどうすればいいのかが、5月~6月にはチームとして徹底できるようになりました」と夏前には春木監督も手応えを感じられるようになっていた。
そして、夏に快進撃を見せる。1回戦で武生商に6対2で勝利すると、2回戦では昨夏に敗れた藤島に7対0の8回コールドでリベンジした。準々決勝でセンバツ16強の啓新に延長10回の末、サヨナラで破ると、準決勝では秋に打ち込まれた福井工大福井を玉村が完封。3対0で秋の福井王者を破り、初の決勝進出を果たした。
決勝では敦賀気比の笠島尚樹に抑え込まれて、0対3で敗れたが、丹生の健闘は多くの高校野球ファンの印象に残るものとなった。準々決勝からは強豪校との対戦が続き、躍進がフロックではないことも証明した。この夏で強敵相手に結果を残したことが、玉村の評価を上げることになったと春木監督は話す。
「準々決勝で啓新、準決勝で福井工大福井、決勝で敦賀気比と5試合のうち、最後の3試合で良いピッチングをしたのは、彼の良いところを十分に発揮して、周りを納得させるような結果に繋がったと思います。彼の評価を高めたのは決勝まで行ったことが籤運ではなくて、実力でねじ伏せたところが評価されたと思うので良かったと思います」
甲子園には届かなかったものの、彼らの持てる力は存分に発揮した。新チームは2年生10人、1年生5人の計15人という少人数でスタート。大エースは抜けたが、春木監督は「力はありますよ」とこの代の選手たちにも自信を持っている。
新たにエースとなった伊藤秀太郎(2年)は130㎞/h台後半のストレートが持ち味。冬を超えたら140㎞/hを超えてくると指揮官も期待している。打線は旧チームからレギュラーを務める主将でリードオフマンの来田達磨(2年)とクリーンアップを打つ宮下陸哉(2年)の2人が中心。打力に関しては「今年の方が上」と春木監督も玉村も口を揃える。
前編はここまで。後編ではさらに秋季大会を振り返り、これからの課題について語ってもらいました。
(取材・馬場 遼)