Column

「球数制限を行う健大高崎から学べるもの」古島弘三医師 インタビューVol.4

2019.08.17

 夏にかけて過熱な議論となる球数制限。その中で年々、投手をシステム的に管理するチームが現れている。それが、健大高崎(群馬)だ。2011年の甲子園出場から機動破壊をキャッチフレーズに名を馳せた健大高崎は、球数管理を行い、投手の実力を伸ばしている。その健大高崎に対し、球数管理のアドバイスをしたのが、古島弘三医師である。

「球数制限を行う健大高崎から学べるもの」古島弘三医師 インタビューVol.4 | 高校野球ドットコムこれまでの連載

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青柳監督の凄いところは変われるところ

「球数制限を行う健大高崎から学べるもの」古島弘三医師 インタビューVol.4 | 高校野球ドットコム
古島弘三医師

―― 健大高崎の青柳監督から聞いたのですが、球数制限のアドバイスは古島先生が行ったようですね。

古島 以前に春の甲子園に出たエースが一人で投げ抜いて、その後投げられなくなった選手がいました。我慢しながらで3回くらいしかもたないと。肘は曲げ伸ばしができなくなり、顔も洗えず、第1ボタンもとめられなくなっていました。夏まで投げさせずにいて、もし投げられるようになったら、3人の投手で継投する方がいいと話したことがあります。エースは2番手にもってくる。3回投げたら交代。

 以後,青柳監督は継投策で大会に臨むようになりましたね。それから,昨秋に選手全員と監督に講義したんです、3時間ぐらい。「甲子園を目指すべきじゃないよ」とか言っちゃいましたよ。(笑) 健大高崎に来る子はみんなプロを目指している。プロを目標として練習に取り組む。夏の大会で勝ったら勝ったで,勝っちゃったら甲子園行けばいいと。むしろそういう気持ちの方が選手は実力を出せますよって。甲子園目指すから、ケガはするしでね。

――はっきり言いますね!青柳(博文)先生がしっかり受け止めているのが凄いです。

古島 青柳監督の凄いところは変われる指導者だからだと思うんです。僕が言う前はガチガチの指導者だったと思いますし、恐らく全国の監督もそうだと思います。そこで僕が言ったことを聞き入れてくれて変わってくれた、ますます面白いチームになっていくと思います。

――青柳監督の姿勢は理想ですよね。

古島 指導者が選手を守る意識を持つ事が大事だと思います。それこそが監督やコーチの役割ですから。勝つ事ではなくて、その選手たちをこの先どうプレーさせてあげるか、どう活躍させてあげるか。高校はその為の育成の場であるという考え方にシフトしていく事が大事なんじゃないかと思います。

――だからこそ、健大高崎のような強豪校が球数制限をするのは、ある意味画期的な事ですよね。

古島 そうですね。だからそういう高校から将来、たくさんの選手が育って、甲子園に行かなくてもプロに行く選手が増えてくれればいいと思います。甲子園を目標にするから選手も潰れてしまうし、多くの逸材がプロに行けなくなるんです。プロ選手を多く育てるという意識を持って3年間、選手を育てれば結果もおのずとついてくるんだと。甲子園に行こうという意識がなくとも育成に力を注いでれば、選手も勝手に強くなって結果も出る。そんな風に自然に強くなっていけばいいと思うんです。
 指導者が勝てと言うんじゃなくて見守る。選手は勝ちたいでいい。それを指導者が煽ってはダメなんです。怪我をせずにどうやって上手くなるのかとか、そういう事を選手たちが自分から考えていける環境作り、そういう事を教えるのが指導者の役割だと思います。ケガした選手たちをふるいに落として相手にしないで、甲子園甲子園と思っている指導者は本当の意味で良い指導者とは言えないんじゃないですかね。

[page_break:これからは選手が指導者を選ぶ時代に]

これからは選手が指導者を選ぶ時代に

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笹生悠人(健大高崎)

――先ほどの健大高崎では選手は自分の状態を正直に話せる、そういう雰囲気がチーム内に出来ていました。それは凄く良い事なんじゃないかと思います。

古島 本当にそうですよね。痛ければすぐ病院に行く。指導者が選手の健康を第一に思うことがいちばんな事です。今まで勝利至上主義という指導を受けて育ってきて自らが、教える立場になった時に、同じ指導をしてしまうのは致し方ないと思うんです。しかし、時代は変化し情報がたくさんある中でどういう指導がいいのか、従来の指導から柔軟にシフトしていく。そういう変われる指導者が良い指導者と言えるんじゃないかと思います。

 だから今従来のやり方をしている指導者の方もこういう話を聞いて変わろうと思ってくれたらいいなと思います。そんなんじゃ勝てるわけない、良い選手は育たないと思っている指導者の方がいれば、僕は辞めるべきなんじゃないかと思います。選手を育てるでなく、潰してますから。

――これからは選手が指導者を選ぶ時代になる。

古島 甲子園がゴールじゃないと思える選手や親たちは選ぶでしょうね。どこに行ったら上手くなるか。そうじゃない学校は淘汰されていく。だからこそ、僕は指導者も早く変わるべきだと思います、淘汰される前に。

――確かに育成にシフトしている学校は絶対的なエースがいなくとも、故障者は少なく、平均的なピッチャーのレベルは高い。

古島 そうなんです。しかしそれでも防ぎきれない故障や怪我はある。高校でいい指導を受けても、既に手遅れな選手はいます。だから本当は高校だけでなく、中学、小学校から育成に重きを置いた指導をやらないと。実際にデータでも小、中学校で肘を痛めた選手の5割くらいは高校でまた痛めるという結果が出ています。小、中学校で痛めた事がなくて、高校で初めて痛めたって選手は1割くらいしかいません。後遺症として残りますから。だからこそ、もっと厳密に学童の指導者から変わる事が重要になってきています。大学のリーグ戦のように投手の登板間隔を空けるやり方が甲子園より良いと思います。

 実際に健大高崎の青柳監督にその方針を聞くと、練習試合で土日続けての連投はしない。練習試合と試合前の調整投球の投球数は生方部長が管理し、記録をとっている。

 そのため今年の夏までの公式戦、練習試合含めても完投はない。また多くの投手に登板機会を作ろうと努力しており、たとえば雨で土曜日が中止の場合、土曜日登板予定の投手と日曜日登板予定の投手が全員投げられるよう、工夫を行っている。

 そして平日はほぼピッチング練習をせず、トレーニングに充てる。それは、他校の追い込み期間の5,6月でも変わらない。今年のエース・笹生悠人によると、今年になってから投手陣で肩、ひじを痛めた選手はほとんどいないという。笹生はこの方針になるまで、結構投げて作るタイプだったようだが、今では短い球数で投げて肩を作れるようになったようだ。

 またこの方針にしたことで、多くの投手の球速がアップ。6月23日、星稜東海大相模の練習試合で登板した8投手のうち7人が130キロ以上。そのうち2年生が5人もいた。笹生はこう語る。「今の2年生は僕たちの学年より130キロ後半を投げられる投手がたくさんいます。だからベンチ入り争いは大変だと思いますよ。」

 この夏は初戦敗退。だが、その取り組みは着実に実を結んでおり、来年、再来年には全国トップクラスの投手王国を築いている可能性がある。投手は計画的に管理をしていけば作れるのである。

取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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