Interview

驚異的な球速アップの要因は「右手の小指」。たどり着いた剛速球右腕への道 池田陽佑(智辯和歌山)【後編】

2019.07.06

 下級生時から智辯和歌山投手陣の一角としてチームの躍進に貢献してきた池田陽佑。2年秋よりエースナンバーを背負い、今春のセンバツ大会では2試合、13回を投げ、自責点はわずか1。啓新との2回戦では降雨による1時間50分の中断に集中力を切らすことなく121球を投げ切り、高校初の完投勝利をマーク。8強入りの原動力となった。センバツ後は質のいいストレートにさらに磨きがかかり、いまだ成長途上の真っただ中。

 後編では、野球人生で直面した苦難やセンバツ後の球速アップについて。そして最後は、夏にかける思いを語ってもらった。

センバツ2試合で自責点1の好投!存在感増す池田陽佑(智辯和歌山)の歩みを振り返る【前編】

投手人生の危機を乗り越えた高1の夏

驚異的な球速アップの要因は「右手の小指」。たどり着いた剛速球右腕への道 池田陽佑(智辯和歌山)【後編】 | 高校野球ドットコム
春季和歌山県大会での池田陽佑(智辯和歌山)

 「ストライクが入らなくなってしまったんです…」

 1年春の和歌山大会でいきなりのベンチ入りを果たした池田。順調な高校野球生活のスタートを切ったかに思われたが、突如、深刻な制球難に陥ってしまい、目標にしていた夏の大会のベンチ入りは成らなかった。

 「投球フォームの乱れが発端だったとは思うのですが、ストライクが入らなくなったことで、どうしていいかわからなくなり、精神的にも余裕が全くなくなってしまって…。悪い結果が次の悪い結果を呼んでしまう悪循環に陥ってしまい、入学時に138キロをマークしたスピードもどんどん落ちて行って。もう、途方に暮れてしまいました」

 当時、コーチを務めていた中谷仁現監督に相談したところ、「バッピ(バッティングピッチャー)をやれ。6割くらいの力でいいから打撃練習でどんどん投げて、ストライクをとる感覚を体で思い出せ」というアドバイスを授かった。

驚異的な球速アップの要因は「右手の小指」。たどり着いた剛速球右腕への道 池田陽佑(智辯和歌山)【後編】 | 高校野球ドットコム
池田陽佑(智辯和歌山)

「高1の夏の間、毎日のように200、300球を投げてました。最初はストライクが入らず、バッターの方には迷惑をかけっぱなしで、精神的にも苦しかったですが、体力的にきつい状況で投げ続けるうち、だんだんとストライクがとれるフォームに体が導いてくれる感覚になっていって。夏の終わりごろに力を入れて投げてみたら、きっちりストライクがとれるようになり、球速も138キロあたりまで戻って。あのままの状態で高校野球生活が現在まで続いていたらと思うとぞっとします。中谷監督には感謝してもしきれません」

 2年時には投手陣の一角として春、夏連続甲子園出場に貢献。2年秋よりエースナンバーを背負い、今春のセンバツ大会では2試合、13イニングを投げ、自責点はわずか1。奪三振は4にとどまったが、投球の安定感は申し分なく、ベスト8進出の原動力となった。

「中学まではプレートの三塁側を踏んで投げていたのですが、高校に入り、コントロールに苦しんだ時期に『アウトコースに投げやすくなるから』と中谷先生の助言を受け、プレートの踏む位置を一塁側に変更したんです。以来、2年秋まではずっと一塁側を踏んでいたのですが、アウトローをつく技術が上がったので、今年のセンバツから三塁側に戻したんです。同じアウトローでも横の角度を使える分、打たれにくくなった感覚があります」

[page_break:センバツ大会後の劇的スピードアップの要因とは?]

センバツ大会後の劇的スピードアップの要因とは?

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写真① リリースポイントのイメージを話す池田陽佑(智辯和歌山)

 春季近畿大会では奈良・智辯学園と対戦。先発マウンドに上がった池田は3本塁打、6失点を献上したものの、センバツ大会時に比べ、ボールは明らかに力強くなっていた。センバツ大会では141キロが最速。アベレージは130キロ台だったが、智辯学園戦ではアベレージで140キロ台をマーク。最速スピードは149キロを計測し、短期間で驚愕のスピードアップを果たしていた。センバツ大会後の約2か月の間にいったいなにが起こったのか。池田に問わずにはいられなかった。

 「センバツ大会後、体重が4キロ増えた影響も多少はあるかもしれませんが、スピードが出るようになった最大の要因は智辯学園とのゲームの1週間前に、中谷監督のアドバイスでフォームを改良したからだと思っています」

―― その話、もっと詳しくお聞かせください!

池田 「テークバックからリリースシーンに向かう際に『右手の小指からリリースポイントに入れていくイメージで投げてみたらどうだ?』というアドバイスをいただいたんです」

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写真② リリースポイントのイメージを話す池田陽佑(智辯和歌山)

―― 小指から入れていくということは楕円形のラグビーボールを投げる時のような利き手の使い方ですか?

池田 「そうです、そうです! まさにそのイメージです。小指から入れるイメージで投げると(写真①、写真②参照)自分の場合、腕がしなり、胸がより張れる感覚が生まれたんですよ。それによって一気にボールが速くなって。以前よりもボールが耳の近くを通るようになったことでコントロールもよくなった感覚があります。変化球のキレもよくなりました」

―― フォーム改良以前はどういうイメージで投げていたのですか?

池田 「右手のひらからリリースシーンに向かうイメージだったので(写真②参照)、ボールは耳から離れ、胸も今ほどには張れなかったですね。ほんのちょっとしたイメージの変更でここまでボールが変わるとは思わなかったです」

―― 急激なスピードアップの背景にはそんな新たな試みがあったのですね。自己最速スピードが出た試合で智辯学園打線に3本塁打を浴びてしまったことについてはどのように自己分析されているのでしょうか。

池田 「ストレートで押しすぎましたね。かつてないスピードが出るので、気持ちよくなってしまって。自分が投げるストレートに完全に酔ってしまいました。今思えば、持ち球のチェンジアップ、フォーク、スライダーをもっと織り交ぜ、押しっぱなしじゃなく、少し引けばよかったのかなと。でも押しても抑えられるストレートを投げたいとも思いました。ストレートとわかっていても空振りやファウルがとれるようなストレートを投げたいなと。そう強く思わされた試合でもありました」

「智辯学園戦の投球フォームは映像で何度も繰り返し見ました」と池田。その結果、ある重要ポイントに気づいたのだという。

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グラブをはめた手の位置について話す池田陽佑(智辯和歌山)

 「上げた左足を下ろし、キャッチャー方向へ並進運動を行う際、前に突き出した左手の位置の高低にバラツキがあったんです。検証してみると、左手が高い時は打たれていないのに、低い時は打たれていることに気づいたんです。現在はグラブをはめた左手を意識的に高くし、投げているのですが、キャッチャーやバッターに話を聞くと、グラブを高くすることで横を向いている時間が長くなり、ボールの出どころが見づらくなるみたいで。ボールの質もよくなる感覚があるので、夏に向け、このフォームを固めていきたいです。和歌山を勝ち抜き、春よりも成長した姿を甲子園で見せたいと思っています」

―― 最後に高校球児へのメッセージをお願いします!

池田 「ぼくは『神様は乗り越えられる者にしか試練を与えない』という言葉を心の支えにし、やってきました。高校野球と真剣に向き合う中で、つらいことはたくさんあると思いますが、その試練を乗り越えたら、『頑張ってよかった』と思える、いい景色が必ず待っています。ともに頑張っていきましょう!」

―― 今回は夏を前にした貴重なお話、ありがとうございました。

池田 ありがとうございました!

文=服部 健太郎

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